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REPORT


レポート

ありのまま、そのままの自分でいい。大切なことは、真正面から自分と向き合うこと。内なる自身の可能性を感じること。そこからすべてが始まる。過去をみつめ、今を生き、未来を創造しよう。仲間とともに。

「先生こそが真に未来をつくることができる」。深く豊かな学びとともに、勇気と確信を持って前に進もう。未来を生きるこどもたちのために。

前編

ワクワクからきっと「何か」が始まる。探求の心に灯をともそう

7月、都内某所の研修施設で行われたキックオフ合宿に全国9道府県から12人の指導主事が集まった。扉に貼られた『「主体的・協働的な学び」を実践できる教員養成のための指導主事研修プログラム』の文字、その言葉の内容からは研修内容を読み解くことはできない。受講生もどこか落ち着かない様子。ソワソワ、ドキドキ…、受講生たちは互いの顔を見回す。その様子に、研修を担うティーチャーズ・イニシアティブ(以下、TI)代表理事、宮地勘司の顔がほころぶ。

研修の詳しい内容は明かされていない。真っ新な状態で来てほしい。頭と心に白紙の部分があるからこそ、新たなアイデアが描ける。「良いね、何かが始まるぞって感じですね」。宮地の言葉からも、ワクワクが伝わってくる。

「まずは丸くなって座りましょう。チェックインの時間です。今、みなさんの心のなかにあることを話してください」と、宮地は受講生たちに声をかける。「はじめまして」から始まる手短な自己紹介、受講生たちが語る”今の気持ち”は、研修に参加することを決めた背景やそれぞれの現場に対する思い。自然と声が熱を帯びていく。

大きく頷いたり、笑いながら互いの話をしっかりと受け止める受講生たち。時間にしてほんの15分ほどのチェックインで、受講生たちの間に小さな絆が芽生え始めた。対話を通して探求心に灯がともると、いくつもの問いが自然に生まれてくる。難しく考えなくていい。主体的な学びは、静かに始まる。

互いを知り、認め合うことで深まる対話。研修の枠をも超えた本質的な学びがはじまる

「脳みそにびっしょり汗かきましたよ。現場でもこんな研修ができたら良いな。いや、こういう研修を私もやってみたい」ー。研修初日を終えたばかりの受講生たちの頭からは、ほかほかと湯気が立ち上っているようだった。その顔からは「もっと深く知りたい」という思いがあふれていた。

「明日もあるから、お楽しみに。ご飯を食べて今日はゆっくり休みましょう」と宮地が促し、食堂へと向かっていく受講生たち。そのうしろ姿は、まるで高校生のように生き生きとしていた。初日のワークでは、それぞれ人生の歩みを振り返り、自分自身と向き合うことから始まった。

幼いころ、私はなぜ先生になりたいと思ったのか
教師となり、私は子どもたちに何を伝えてきたのだろうか
本当に私がやりたいこと、大切にしたいことは何だろう…

立ち現れるさまざまな問い。傍らに幼いころの自身の写真を並べ、互いの人生の話に耳を傾ける。わきあがる思い出を言葉に紡いでいくと、次第に感情があふれ出す。書き上げた文章を読み上げ、涙する受講生の姿もあった。それぞれの歩みを受け止め、深く理解することで生まれる信頼関係。対話はさらに深く、本質的になっていく。

初日の研修の終わりを告げるチェックアウト。「自分の人生をここまできちんと深く振り返ることはなかった」、「教師になろうと思ったその原点を思い出すことができた」、「安全・安心な場づくり、心理的安全性という言葉は知っていましたが、その環境をどうやってつくり出すのか。方法は具体的に知らなかった」。率直な思いが共感の輪を広げ、受講生たちの心をさらに開いていく。すべての受講生がフラットに向き合うまんまるな車座が研修室の真ん中にあった。

仲間の存在が、前へ進む力になる。共創で学びが加速する

「一人なら、きっとここまで深く考えられなかった。皆さんとの対話があったからこそ、深い学びへとたどり着くことができた。仲間の存在って、すごくありがたいなって」

合宿2日目は対話(ダイアローグ)を通じて未来を展望した。いま社会にある潮流から2030年の社会がどのようになっているか、それぞれが手に持った付箋に思いついたアイデアを記し、次々と模造紙へと貼っていく。色とりどりの付箋が、あっという間に模造紙を埋めつくす。受講生の体全体からワクワクが伝わってくる。学びへの意欲が自走する。社会を生きる子どもたちに必要な学びとはどのようなものか、本音の対話が繰り広げられた。

3日目は、指導主事である受講生が、先生たちにどのような学びを教育の現場で実践してほしいのかを考察した。またその学びの実現のためには何が必要なのか、深い対話を重ねていった。

宮地はその姿を優しいまなざしで、じっと見守る。

「自分の頭で考え、自分なりの答えを導き出していくことが大切です。教育現場では主体的・対話的で深い学びが求められていますが、実際はその本来の意義を深く理解して、どのような準備をしていけばいいのかが難しいのが現実。先生たちは日常の業務に終われ、探究学習にまでなかなか手が届かない。

それでも志を持って新しい学びを取り入れようと孤軍奮闘する先生たちがいる。TIを通して学校や地域、世代を越え、先生たちがつながってほしい。

自分だけじゃない、同じ思いの仲間がいることはきっと前に進む勇気になる」

三日間の合宿を終えると、メンバーはグループを組み、ワークショップをつくる実践課題に取り組むこととなる。課題作りと並行して、現代の教育分野をリードする講師陣による多彩な講義が用意されているのもTIの特徴だ。

学習指導要領の改訂を担った元文部官僚(現在は文化庁次長)の合田哲雄氏とともに考える「教育DXの先にある学校の存在意義」。国の目指す教育と現場のギャップ、オンライン授業など急速な学びの変化に直面する学校はどうあるべきか、受講生たちはそれぞれの考えを合田氏にぶつけた。

脳神経科学の専門家、青砥瑞人氏からは、集中力、記憶力、行動力を高めるための理論と具体例を学んだ。さまざまな困難を抱えた子どもへの無償の学習支援などを行う認定NPO法人Learning for All代表理事の李炯植氏からは、子どもたちとの本質的な向き合い方をともに考えた。

講師に加え、TIのラーニングデザインを担う教育社会学者・福島創太氏からのアドバイスが、受講生の探究心を加速させる。各分野のエキスパートとの対話が、関わる全ての『仲間』との共創を促し、多彩な学びへとつながっていく。

先生が変われば、子どもたちの未来も変わる。いつまでも学び続ける人でありたい

多彩な講義を経て、受講生たちはグループに分かれ先生たちの「学びの場」づくりに取り掛かる。定期的なオンラインミーティングを通して、仲間とともに『自ら考えたくなる』問いのデザインが始まった。どうすれば生徒や地域の先生たちを自発的な学びへと行動変容させることができるのか。それぞれの意見が重なり合うことで、アイデアは研ぎ澄まされていく。

研修開始から約3ヶ月、いよいよグループでの実践のときだ。各々が所属する地域の教員や同僚に向けた研修プログラムの作成に取り掛かる。北海道、埼玉、京都、福岡…、研修を通してつながった仲間に相談しながら、リハーサルを幾度となく重ねた。

その後、受講生らは独自の研修を各々の現場で実践。学びの意図を明確に、それぞれが「やってみたい」と心が動かされるプログラムに挑戦的に取り組んだ。その成果を共有し、さらなる実践に繋げることが指導主事研修の真のゴールだ。

暖かい日差しに春の気配を感じ始めた2月中旬、プログラムの共有とブラッシュアップを兼ね、TIの事務局の入る都内ビルに受講生が集まった。久しぶりに顔を合わせた受講生たちの顔が、一気にほころぶ。互いを深く知り、問いを立て、協働しながら自分の答えを探した8ヶ月。受講生たちの発表は多様でどれも本質的だ。TIの研修の中で実感した学びを、活かし、伝えたい。「やりたかった」が「できた」に変わったことを、受講生たちの表情が物語っていた。

それぞれの考えや思いは違えど、願いは同じ。子どもたちの未来のために、教育者として何ができるのか。先生が変われば、子どもたちの未来も変わる。指導主事という、“先生の先生”がその先頭に立ち、旗を振れば必ず続くものが現れる。

ともに、前へ。『先生こそが真の未来をつくることができる』。その願いを持つ者すべてが仲間だ。

体感したものでしか得られない気づきがある、言葉では伝えきれない学びや出会いがある。ティーチャーズ・イニシアティブだからできることがきっとある。

<後編>を読む

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