ハンバーガーメニュー開く
ハンバーガーメニュー閉じる

REPORT


レポート

後編

学びのバトンをつなぎたい。勇気をもって踏み出す一歩が、真の未来をつくる

ティーチャーズ・イニシアティブ(TI)による「主体的・協働的な学び」を実践できる教員養成のための指導主事研修プログラムを通して、受講生である教育指導主事たちは何を学び、何に気づいたのか。2023年度プログラム修了生たちの言葉から見えてきたのは、知識授受にとどまらないTI独自の進化と深化を続ける実践の学びでした。

子どもたちの未来のために、私たち先生ができることをやりきりたい

茨城県教育研修センター 指導主事 高山雅子

研修テーマ
未来思考で考える研修センターの学びの姿とは〜フューチャーセッションによる対話を通して〜

固定概念の脱却とアイデアの創出による思考の変容を狙いとし、研修を通して学ぶ喜びを実感できる対話型プログラムを構成。指導主事間の横のつながりを強化するとともに、立場を超えた心理的安全性の構築のため、参加者は初めに2人1組で「研修センターの学びの姿」について問いを立てあった。次に2〜3人、最後に5人1組と人数を増やしてアイデアの創出を促し、未来志向で考える探究的な研修の実践を体験してもらった。

今のままでは何か足りない、欠けている。でもそれが何かわからない…、自信がなかったんでしょうね、自分に。だからTIの指導主事研修プログラムの打診を受けた時すぐに「これだ!」と感じました。

キックオフ合宿で自身と向き合う中で、自分の目指す教育の景色が見えました。「そうそう、私ってこういうことを子どもたちに伝えたいんだ」って。その時気づかされたんです。参加した指導主事のみんなが私と同じように子どもたちの未来を思っているということに。

当たり前のことですよね。でも当たり前のことだからこそ、日々の業務に追われる中では意識が薄らいでしまっていたのかもしれません。私がやりたいことをやれば良いんだ。目指すゴールが一緒なら、自ずと周りも一緒になって進んでくれるはず。もっと自分軸で考えよう、それはきっと子どもの未来につながっていくことなんだ。

欠けていたのは「勇気」でした。自然と周りにあわせて発言を控えてしまったり、行動に移せなかったり…、一歩が出なかった。TIを通じて自分の思いを明確にできたこと、それを実践するための学びを得ることができました。

研修で大切にしたのは「心理的安全性」、属性等の隔てのないフラットな場において思考を個別から協働へと発展させること。少ない人数で濃い対話の時間をつくりお互いの関係性を構築、段階的に人数を増やしてくことによって心理的安全性を維持したままより深い対話へと導くことができました。

実は私の想定以上の指導主事から研修の申し込みを受けました。最初はその数に「私で務まるかな」と不安でしたが、始まってみれば時間が足りないほど対話は盛り上がりました。
「対話の場の雰囲気作り、安全安心な場作りの重要性を感じた」
「センターのさまざまな指導主事との交流を通して、新たな見方や視点を得ることできた」
「思考を言語化することの大切さ。研修のあり方についてもっと考えたいと思った」

受講者の感想からも、私が研修を通して伝えたかった想いを受け止めていただき、力を合わせて進化しようとする姿勢を感じました。「やってよかった」と、心からそう感じています。

だから今は、胸を張ってこういえます。「自分が変われば、周りも変わる、未来の教育も変えられる」。自信は確信に変わりました。

想像を超えた新しい景色との出会いが、学びの喜びへと変わった

京都市教育委員会事務局 指導部学校指導課・指導主事 岡本弘嗣

研修テーマ
自己開示・相互理解の上に成り立つ、より良い研修・授業の構築について

指導主事それぞれが、担当教科に対する自身の想いや届けたい学びについて自己開示し、他者の考えに触れることで多様な意見や気づきを得ることを目標とした。研修を「受講」で終わらせず、指導主事には同様の自己開示と他者理解のプログラムを、教員採用予定者向けの研修で実践してもらうことでより深い学びの場の創出を目指した。

「意図しながら、意図を手放す」。不思議な感じですよね。モヤモヤっとしたものがそこにはある。でもそのモヤモヤ感が探究には欠かせないポイントなんだと思います。

よく「答えのない問い」という言葉を耳にしますが、自分の思いとしてはそれは「あらかじめ答えが用意されていない問い」と言えます。きっと答えはあるけれど、それはあいまいかつただ一つのものではないかもしれない。でも答えがないからといって何でも正解にしてしまってよいのかというと、少し違うのではないかと私は感じます。お互いの考えを重ね合わせ、高めあっていく先に出てくる答えを、皆の力で導き出す。それが探究活動の魅力の一つであり主体的で協働的な学びだと、私はTIの研修を通じて再確認しました。

TIの研修では前半でプログラムを受ける側を、後半ではプログラムをつくる側を経験しました。前半では心理的安全性の意義や対話を通した相互理解の重要性を肌感覚で学べたことが印象的でした。宮地さんは指示を出すわけではなく、我々に問いを投げかけるのみ。でも自然とその本質に皆が向かっていく。コントロールとは少し違った、受講者の自発的で主体的な動きがそこに生まれる、不思議でしょ。これは経験した者でないと掴みにくい感覚なのかもしれません。

研修後半に入り、自分自身でプログラムを作成するにあたって、どうすれば参加者が主体的にプログラムに関わることができるのか、前半の研修で実体験を得られたからこそ、その先を想像することができました。この「やってみる」という実践が何より大事だと感じています。

指導主事向けに構成した研修では、「高校生に伝えたい学び」「初回授業における生徒の興味関心を引き出す導入について」という2つの問いについて指導主事がそれぞれの考えを伝え、深め合いました。意見交換を通じて相手の想いを知る。ここで受講者として終わるのではなく、受講した指導主事が教員として採用予定の若い先生に同様の研修を行う仕組みを作りました。

最後に、受講者側で深めた気づきや学びをベースとして意図をもって若い先生へ実践する。思ってもみなかった話や展開になるかもしれないけれど、そのときは「勇気をもって意図を手放しましょう」と目線合わせをしました。そうすることで、より深い気づきを得られると思ったからです。

主体性をどう引き出していくか、安心できる仲間とともに対話を通して問いに向かい合うことで自ずと『我々の答え』というものに近づいていく。あるグループでは「どんな人が言ったかによって、生徒の『やってみよう』の気持ちは大きく変わるのでは」との意見が出ました。目の前の授業や受験のことだけ考えていては気づかない考えだと思います。研修を通じて自分一人では思いつかないようなアイデアや言葉が見つかる。今は研修をファシリテートすることが楽しいと思える。

指導主事になってよかった。こうしてTI、そしてたくさんの仲間と出会えたことで視野が広がりました。同僚から「最近、元気だよね」と言われることが増えたのも、きっとこの研修のおかげだと思います。

「本当にやりたい」と思えることを、自分自身がやらなくちゃ

福井県教育庁高校教育課 大学進学サポートグループ・指導主事 家根谷直登

研修テーマ
教師の価値の問い直し

教師の価値は何か。大きな社会変容の中、教師の存在価値についてグループワークを通じて深く問うことで、教師として何ができるかを未来志向で考える。問いとして「教師のいない未来で学ぶ子どもたち」を想像し、受講者に教師の存在価値について意見をまとめ、各グループでの発表を行った。

「教師という職業はなくなりました。そのような未来で、子どもたちはどのように学びますか」

問いのきっかけは、娘が通院するクリニックの医師の何気ない一言でした。「医者という職業は将来なくなるかもしれませんね」。ITやAIの発展により、診断や手術はロボットが担う時代が来るかもしれないと語る医師。それは教師も同じかもしれない。そう思うと、帰り道はどんよりとした気持ちになりました。時代の流れには逆らえない、ただ本当に教師は不要な存在だろうか。この問いを周りの指導主事はどう考えるのか。率直に「聞いてみたい」「一緒に考えたい」と思いました。。

新しい学びを取り入れよう。社会の変化に合わせ、頭の中ではそう理解してはいるものの、教育現場ではまだまだ「進学」という軸が、生徒も保護者も、学校側にとっても大きなウェイトを占めているのが現実です。新しい学びのための総合学習の時間を、意図に反して受験対策の時間に充てることもありました。

新しい学びをどうやって取り入れれば良いの? その戸惑いから私自身が消極的になり、アクティブ・ラーニングに対しての苦手意識を感じていました。正直、TIの研修に参加する直前まで不安でした。それでも受講しようと決意したのは、心の中では変わりゆく社会に合わせ『新しい学び』は欠かせないと信じる自分がいたからです。

キックオフ合宿の初日にその不安は吹き飛びました。対話を通してお互いを理解しあうことで、深い学びが得られることを体感し、ともに考え、何かをつくる(答えを出す)ことが素直に「楽しい」と思えたことで一気に研修にのめり込みました。

研修も終盤、自ら作成した研修プログラムを実践する時がやってきました。受講者は私よりも目上の方々ばかりで緊張しましたが、勇気を出してこう言いました。「はじめはチェックインから。お互いのことを良く知りましょう」。これ言ってみたかったんですよね。

ドキドキしながら受講者の様子を見守りました。最初は固かった場の空気が、問いと対話を重ねていくうちに和らぎ、笑い声が聞こえ、声のボリュームが次第に大きくなっていく。あっという間に2時間の研修プログラムを終えました。教師の価値を考え、言語化することは、自分たち教師の存在意義を確かめ、認めること。TIで学んだ対話を通した協働的なワークから、問いを深く考察することができた。何よりもうれしかったのは、受講者の出した答えが「やっぱり教師は必要だ」であったこと。前向きな言葉でその理由を語る姿を見て、言葉にならないほどうれしかった。

できたこともあれば、うまくいかなかったこともたくさんありました。その反省点などをTIでともに学ぶ仲間たちと、振り返る時間も貴重な経験でした。フィードバックを得ることで、より良いプログラムになりそうです。

いつか指導主事を終えて、先生という立場で教育現場に戻ることもあるでしょう。きっとその時にも、TIで学んだ安全安心な場づくりや対話のあり方が活かされると思います。

これからもともに歩む仲間とともに。その一歩が未来を変える

「まだ自分にはこれほどまでに学びへのエネルギーを実感できた。教育者としての使命を感じ、この思いをやり切りたいという気力が、自分の中からわきあがってくることに喜びを感じた」

「最初と最後、同じ問いに対して出した答えは違うものでした。他人事のように考えていた最初の答えは、研修を経て自分事に変わっていました。問いと向き合う自分自身の姿勢が変わったことに気づくことができました」

「同じ思いを持つ指導主事たちが、全国にいる。仲間がいると思えることで、勇気が湧いてくる。互いに切磋琢磨することで、学びは必ず進化・深化していく」

受講生たちの言葉からあふれる学びの喜び。新たな気づきがもたらす教育観の更新こそが、真の未来を開く鍵となる。TIで学んだ指導主事たちは、それぞれの地域や所属に戻り、それぞれのやり方で主体的・協働的な学びを実践し続けます。

生き生きと教育への思いを語る受講生の姿に、TIの代表理事を務める宮地勘司は「勇気が湧いてくるね」と笑みをこぼす。

「やったことのないことに挑戦することは誰しも不安がともないます。それでも前へと一歩を踏み出した彼らの行動力が、未来を変えるアクションになると信じています。

先生たちが学びのバトンをつないでいくことで、必ずこの国の教育は良い方へと導かれる。皆さんの姿を見て、ここに未来へと続く道があると確信しました」

学び続けよう、その先にある未来のために。
先生こそが真の未来をつくることができる。

<前編>を読む