オンライン研修参加者の声

八木 邦明先生
一般社団法人シヅクリ (TI参加時 静岡市立賤機中小学校校長)

「上から目線」の校長が次なる舞台へ

修了生の声〈https://teachers-i.org/2020/06/03/report02/〉でもご紹介した、八木邦明先生。今や「一般社団法人シヅクリ」を設立し、新たな道を歩み始めた八木先生が「対話」に目覚める出発点となったのは、TIで受けた衝撃、自分に対する気付きでした。

 青春ドラマに出てくるような熱血教師になりたくて、中学校の教員を選びました。最初に赴任したのは、東京都小平市の中学校。当時は学校が荒れていた時代で、生徒指導が本当に大変でした。でも、その学校には熱意を持って指導に当たる先生たちがいて、語らずともわかり合える、本当に青春ドラマのような熱い教師仲間との日々を過ごしました。これが私の、教師としての原体験です。
 4年が経ち、故郷の静岡に戻ってからも教員を続け、英国の日本人学校に行ったり、教育委員会に異動したりと紆余曲折はありながらもキャリアを積み、小学校の校長になりました。ここに至って小学校と中学校では文化が違うことを実感することになります。小学校の校長職では、自分がかつて目指し、体感したような熱血指導が求められるわけではない。それなりの経験も積んだ「校長」としての立場ながら、少なからず悩みもありました。
 そんな時に、東京の千代田区立麹町中学校の工藤勇一校長に教えていただき、教育と探求社が主催している「クエストカップ」を見学する機会を得ました。
 部活動でもない授業の成果発表にもかかわらず子どもたちが熱気をもって学んでいることが鮮烈な体験でした。そこから「教育と探求社」の社長でもあり、TI理事の宮地さんの紹介で「21世紀ティーチャーズプログラム(以下TIプログラム)」を知り、参加してみようと思いました。初めは「何だ、これは?」という好奇心からでした。

 TIプログラムでは、これまでにないほどの衝撃を受けました。そのひとつが、自分がいつの間にか「上から目線」になってしまっていたのだと気付かされたことです。
「上から目線」の理由には、思い当たるところがあります。それまでのキャリアでは主に生徒指導を任されてきて、緊急事案に対処する機会が多くありました。リーダーとして対応策を即座に決めて、周りにパッと指示を出して動くことが多かったので、そのやり方に慣れてしまっていたんです。部下が何か相談してきても、すでに自分の中では「何を指示するか」答えがきまっているので、対話が起きないのです。その必要も感じていない。しかし、そのことについて無自覚でした。

 一方、TIプログラムの中では、対話を通じたグループワークで新しいワークショップを開発していきます。若いメンバーに比べると陳腐なアイディアしか出せず、対話にもうまく参加できない自分がいて、鼻っぱしらをへし折られたような気分で悩んでいました。そんな時に、仲間の一人から
「八木ちゃんの中にいる黒ヤギと白ヤギを言葉にしてみない!?」
と、言われたのです。

 誰の中にも「上から目線のプライドが高い自分」と「もっと学びたいという自分」というふたつの心の声があるかもしれません。その二面性を「黒ヤギ(八木)」「白ヤギ(八木)」という言葉であらわして対話をしていきました。
「黒ヤギ」は、他者の話を聞いているようでいて、心の中では「何かカッコイイことを言ってやろう」と考えていたりするんです。目の前の他者に目を向けていない。それから、ワークショップで新しい知識や方法論を聞いても、内心では「へえー、そんなの知ってるよ」なんて今まで自分が得た枠組みの範疇で考えている。だから学びが起きないのです。
 合宿の初日には「私の履歴書」を書いたのですが、実はここでも僕の中にいる黒ヤギが邪魔をしていました。他の参加者は「素の自分」をさらけ出すように書いているのに、自分はどうしても「体よく」書いてしまう。でもその時、そんな自分の姿に疑問を投げかける白ヤギとしての自分の心の声に気がついたのです。

 TIに参加したことで、本当に人生が変わったと感じています。当時の自分がTIに出会わないまま校長を続けていたら、もっと「上から目線」の校長になっていただろうなと思います。
 それを象徴するようなエピソードがあります。
 TIに参加して一月ほど経ったころ、自分の学校にいるベテランの女性教員から「もうちょっと私にも寄り添ってください。ちゃんと話を聞いて欲しい」と、詰め寄られたことがありました。自分としてはしっかり話を聞いているつもりだったのですが、どうしてもすぐに答えを出して、指示をするばかりになってしまっていて、その先生のことを本当の意味で受け止められてはいなかったのです。
 ところが、TIの研修が進んでしばらく経った頃に、またその女性教員が校長室にやって来ました。そこで言われたのは「最近、校長先生は柔らかくなりました。校長先生から受ける印象が全然違います。他の先生たちもそう言っています。」という言葉でした。おそらく、TIに参加したことで自分の意識が変わりつつあったのでしょう。相手の話を聞いたら、口を突いて出る答えをいったん自分の中で「保留」して、もう一度話をよく聞いてから反応する――そうやって、「対話」ができるようになってきていたのです。

 TIで様々な収穫を得た私は、自分の学校でその学びを具現化すべく、実践に取り組みました。生徒たちに対話の力を伝えるために、まずはその重要性を勤務校の先生たちと共有。職員室に「対話の文化」を醸成しながら、保護者や地域の方たちともできるだけ「対話」の機会をつくり、彼らを学校運営に巻き込んでいきました。

 実はその後、さらに発展して、私は大きな決断をすることになりました。早期退職で学校を辞め、「一般社団法人シヅクリ」を設立したのです。そこでは、学校と企業を結びつけることで、大人も子どもも自分の「コア」(内なる自分、自身の真ん中にある本質)に出会えることを目指します。
 今は教職とは別の道を進み始めてはいますが、これも、自分が学校でこれまでやってきたこと、TIで学んだこととが、確実につながった結果だと思っています。


3期八木先生と、4期山下先生の取り組み「シヅクリプロジェクト」がスタートし、NHKニュースでも取り上げられました。学校と静岡の企業をつなぐ探究学習の取り組みです。
「静岡の未来を考えるプロジェクト」
https://www3.nhk.or.jp/lnews/shizuoka/20200820/3030008174.html?fbclid=IwAR1uzsu0c0EO0wErk7MD6dcuAHzyxkerzRirSGCd2BPHKuhR8lsu4-JH9gQ

八木先生の実践発表はこちら

「建設的な会話が少ない職員室、この空気感をどうにか変えたい」
https://teachers-i.org/2020/06/03/report02/

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