【新コラムスタート】先生のためのシステム思考入門Vol.2 

「システム思考の氷山モデル」

システム思考コラムの第2回です。第1回のコラムでは、システム思考とは何か、どうして必要なのかをご紹介しました。

【復習】第1回システム思考って何だろう

「システム思考のパワフルなツール『氷山モデル』とは?」

私たちの世界は、お互いに影響を与え合い、そして誰も予想できないような結果を生み出すような「システム」で構成されています。そのため、こちら側のちいさな変化が、あちら側の大きな変化につながったり、良かれと思って取った行動が、巡りめぐって意図しない悪い結果を生み出してしまったり・・・。

そんなとき、わたしたちは「あの人のせい」「組織のせい」「自分に能力がないから」など、個別の原因を見つけてしまいがちです。でも、システム思考をじょうずに使えば、人を責めたり、ましてや自分のせいにしたりせず、できごとを引き起こしている大きなシステムを洞察し、本当に必要な解決策を探すことができるのです。

システム思考の『氷山モデル』とは?

今日は、そんな思考を助けてくれる代表的なツールのひとつ、システム思考の「氷山モデル」をご紹介します。みなさんがご存知の「氷山の一角」という表現があるように、海に浮かぶ氷山は、その9割は海中に隠れていて、1割ほどが海面から顔を出しているだけです。氷山モデルは、目に見える1割だけではなく、目に見えにくい9割にも意識を向けるための地図のようなものです。

氷山モデルでは、私たちの経験する現実を、「①できごと」「②変化のパターン」「③システム構造」という3つの階層で捉えていきます。

では、学校で起こっていることをシステム思考をつかって観察する練習をしてみましょう。

架空の教室の例です。授業をもっと対話的にしたいと考えた先生が、教壇から生徒に質問を投げかけます。しかし、生徒の手は上がりません。「やっぱりこのクラスの子たちには、対話による学びなんて難しいのではないか?」と、不安を覚えながら黙っていると、まわりの様子を伺うように学級委員の生徒が手を上げて答えます。そして、クラスはまた静まり返ってしまいます。

①「できごと」ー「今ここ」にばかり反応していませんか?

試験の点数が悪かったことや、何かがうまくいかなかったこと。このふうに「今、ここ」で起きている現象を「できごと」と呼びます。これが、海面から顔を出している氷山の一部分です。先ほどの例で言えば、「問い掛けているのに生徒の手が上がらない」のができごとであり、これに直面した先生は不安を感じてしまいます。

日常生活の中で、私たちは「できごと」により強く反応しがちです。それは、自然なことで、私たちが不安を覚えるときや身の危険を感じるときには、「爬虫類脳」と呼ばれる部分が反応するからだと言われます。これは、人間の古い脳であり、生存のための脳とされていますが、この脳には、こんな特徴があります。それは「新しい行動が苦手」だということです。生存が脅かされるような危機において、私たちの行動を決定するものは、多くの場合、習慣(いつもそうしてきた!)ではありませんか?
「できごと」だけを見ていると、私たちにできることは、習慣的な反応(リアクション)ばかりです。そして、起きてしまったことにその場しのぎで対処したり、新しい行動を起こすことができず、私たちはいつも「後手に回る」ことになってしまうのです。

② 「変化のパターン」 ー 時間とともに、何が起きている?

「できごと」とは、言ってみれば「木」のようなものです。しかし、一歩下がって広い目で見てみると、「森」が見えてきます。これを「変化のパターン(または略して「パターン」)」と呼びます。ポイントは、時間とともに、何がどんなふうに変化しているかに意識を向けることです。

「部屋の机の角で足の小指を打った」のは不幸なできごとですが、もしも毎週のように同じところをぶつけていたら? 痛みに涙を浮かべながら患部を冷やしたり、机に怒りをぶつけてみたりという「反応」以外に、するべきことがありますよね?

できごとに気付いたら、一度深呼吸をして「変化のパターン」を探してみましょう。できごとを考えるときには「何が起きた?」と考えますが、パターンを考えるための代表的な問いは、次の2つです。

・「これまでに何が起きているだろう?」(短期・中長期の視点を切り替える)

・「以前にこうした状況はなかったか?」(類似した動きを探す)

時間とともに起きている変化のパターンに目を向けることで、これまでの動きを俯瞰して、これから起こり得ることを予想・予期することができるようになります。

こうした時間とともに起きる変化を、時系列変化パターングラフ(略して時系列グラフ)を使って表してみます。たとえば、冒頭の例では「先生の問いかけ → 沈黙 → 特定の生徒の正解 → 沈黙」という繰り返しのパターンが見られます。このときの、教室での生徒の発言量の変化は、次のような時系列グラフで表されます。

さらに長期で見れば、教師自身があきらめて問いかけをやめてしまったり、また、正解を言えない子は、ますます授業に参加しにくくなっていったりするかもしれません。

この教室では、ほかに何がどんなふうに時間とともに変わっていくでしょうか?ぜひ、少し時間を取って考えてみてください。参考までに、パターンの例をいくつか紹介します。

今回は、システム思考の代表的なツールのひとつである氷山モデルと、その「できごと」と「変化のパターン」という2つの層をご紹介しました。私たちの身の回りは、不安な感情を引き起こす、(往々にして悪い)できごとに溢れています。そんなときに、同じ反応をただ繰り返すだけではなく、一歩下がって時間とともに起きている変化に目を向けるという練習をしてみてください。

次回は、こうした変化のパターンを引き起こしている、「システム構造」とは何かを解説します。言葉だけを見ると、むずかしい印象ですが、これをゆっくりをひも解いていくことで、私たちの身の回りに起きていることがきっと違って見えてくるはずです。どうぞ、お楽しみに!

参考図書

  • 『世界はシステムで動く -今起きていることの本質をつかむ考え方』ドネラ・H・メドウズ(英治出版)
  • 『学習する学校――子ども・教員・親・地域で未来の学びを創造する』ピーター・センゲ他(英治出版)
  • 『地球のなおし方ーー限界を超えた環境を危機から引き戻す知恵』ドネラ・メドウズ、デニス・メドウズ、枝廣淳子(ダイヤモンド社)

著者プロフィール : 福谷 彰鴻(ふくたにあきひろ)

システム思考教育家。クマヒラセキュリティ財団、都内中学・高校、国立大等でプログラムアドバイザーを務める。米国経営学修士(MBA)取得後、ボストンで『学習する学校』著者ピーター・センゲ博士のワークショップ運営をサポート。帰国後は国内教育分野でのシステム思考の普及に向け、教員向けワークショップや児童・生徒向けレッスンをおこなっている。21世紀ティーチャーズ・プログラム4期参加。

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Aug 14, 2020 | category : お知らせ, コラム(システム思考)


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