一般社団法人ICT CONNECT 21・一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ共催イベント
GIGAスクール構想の実現に向けて整備される環境
2019年12月、文部科学省からGIGAスクール構想が発表され、教育現場のICT化がますます加速していく傾向にあります。今回は教員を対象とした研修を実施している奈良教育大学教職大学院准教授の小崎誠二先生(以下:小崎先生)をお招きし、GIGAスクール構想を力強く推進するためのノウハウや考え方を前編と後編の2回にわたってお届けします。
GIGAスクール構想とは何か
GIGAスクール構想とは、2019年12月に文部科学省が発表したICTの導入・活用推進方針を指します。学校に高速大容量のネットワーク環境を構築し、学習用情報端末を小学1年生から1人1台導入、ICTを活用して公正で個別最適な学習環境をいきわたらせるための構想です。(GIGA:Global and Innovation Gateway for Allの略。)
最新情報やノウハウが集まるHUBとなる場所を
GIGAスクール構想を実現するために、一般社団法人ICT CONNECT 21により情報ポータルサイトGIGA HUB WEB が立ち上がりました。本サイトは、ICT導入のノウハウや学校現場での実践報告など、学びの最新情報が集まるサイトとなっています。
GIGAを推進する教員研修、奈良県教育委員会の取組み
「学校の先生は真面目で責任感がある人が多いので、その特徴を生かせるような研修を企画してきました。」そう語る小崎先生は、奈良県教育委員会で、オンラインや動画配信による研修企画を立ち上げ、運営を行っています。教育委員会で13年間教員を対象とした研修を実施してきた小崎先生に、短期間で20種類以上にわたるコンテンツの提供を実現した裏側、教員研修における大切な考え方を伺いました。
GIGAを乗り切るために、研修に必要な5つの考え方
奈良県教育委員会で教員向け研修を提供している回数は200回以上にわたります。研修の企画にはベースとなる5つの考え方があります。
1. 参加者同士の相互理解を促す流れをつくる
研修のはじめに「あなたははだれですか?」という質問を受けたつもりで自己紹介をしてもらいます。仕事のことを話す方もいれば、プライベートについて語る方もいる、いろいろな形で自分のことを話します。各々が自分のことを好きなように語ることで和やかな、前向きな空気感が醸成されます。
2. 目的は自分で決める
「どんな先生になりたいですか?」ということを確認すると、先生は研修の中でその目的を達成するために活動します。研修を提供する側が目的や目標を決めるのではなく、参加者である先生が自分で目的を決めることで参加意欲が高まります。
3.子どもをやる気にさせる先生になる
子どもは、やる気にさえなれば自ら勉強します。先生が知っている知識を教えることももちろん大切ですが、先生が子どものやる気を引き出して、子どもが自発的に学ぶ環境をつくろうという意識を持つことが必要です。
4. 先生自身が勉強する場をつくる
校外の勉強会や教員研修は、学校で1名だけを対象としていることが多くあります。そうなると、ベテラン教員は若手に譲り、自身が学ぶ機会はなかなか確保できません。本来であれば学びは年齢に関係なく、教員みんなで重ねていきたいもの。全教員がいつでもどこでも勉強できる場を作ることが理想です。
5. 仲間がいれば楽しく学べる
学びには仲間も必要だと思います。一人で学ぶよりも、学んでいることを共有することで効果も高まり、新たなアイディアが生まれることもあります。研修に参加する際は、仲のよい先生を誘ってくださいと伝えています。
大切なのは、自分の力を知り、インプットの機会をもっと増やして、子どもよりも学び、できれば先生が勉強しているところを子どもにみせるということです。私たちは「生涯勉強不足」。そういった意識をもって、大人、子ども関係なくいろいろなことの興味をもって楽しく学ぶ姿勢が必要です。
研修は、あくまでもきっかけに過ぎないので、横のつながりをつくって、この先一緒に学ぶ仲間を見つけてほしいと伝えています。
できれば研修の最後には、「私の理想の教師像」という問いに答えられるようになれば理想的だなと思います。
これまで、奈良県教育委員会でおこなってきた調査、研修の取組みを紹介します。
やりがいはあるが若い世代には勧められない?!教員を取り巻く環境とは。
教員の労働時間について、部活動や事務作業、イベント準備などで残業時間が多いことはよく知られているようですが、残業だけでなく始業時間の1時間前など朝早く出勤をしている先生もとても多いです。そのため、学校に滞在している平均時間は11時間20分と長時間になっています。休みの日を返上して仕事をする先生も多く、休養時間が不足していると答えた教員は60%にものぼります。
実は、先生自身もどれくらいの時間学校にいるのか、何に時間がかかっているのかを具体的に把握していないことが多いため、まずは負担を感じる業務の把握や体調管理を記録してみることをおすすめしています。
実際に、県内の先生約3800人に、教員の負担となっていて減らしていきたい業務ランキングをつけてもらったところ、下記のような結果になりました。
1位 事務・報告書作成
2位 会議・打ち合わせ
3位 保護者対応
自分で勉強をしたくても時間がとれないという、自己学習時間が不足していると回答した教員は77%にのぼっています。教員の採用時点をピークに勉強時間が減っていると話す先生もいらっしゃいます。学びたいけど学ぶのが難しい状況の中で、教員は保護者対応や成績の付け方、子どもとの接し方をどこで学んでいるのか、同アンケート結果によると、スキル習得の手段は「先輩、同僚から」が中心になっているという結果がでました。
先輩の経験値から学べることが多くあるのは当然ですが、情報のアップデートや新しいことを学ぶという機会が弱くなっているともいえます。
未来を担う子ども達を育てる教員は、とてもやりがいのある仕事ですが、労働環境を理由に「若い世代には勧めたいとはいえない職業である」という、残念な結果がでています。
そんな現状を打開したいと考え、奈良県教育委員会は「先生応援プログラム」を立ち上げました。
後編では「先生応援プログラム」の内容を詳しく紹介します。
●小崎誠二先生プロフィール
1988年 奈良県の高等学校の国語科・情報科の教諭として20年勤務。
2007年 奈良県教育委員会事務局・奈良県立教育研究所で13年勤務。。
文部科学省ICT活用教育アドバイザー
文部科学省 教育データの利活用に関する有識者会議委員
奈良県域GIGAスクール構想推進協議会 事務局長
奈良教育大学教職大学院准教授