教育委員会で13年間先生と一緒に学んできた講師が語る、GIGAスクール構想を力強く推進するための教員研修。【後編】

一般社団法人ICT CONNECT 21・一般社団法人ティーチャーズ・イニシアティブ共催イベント

教員を対象とした研修を実施している奈良教育大学教職大学院准教授の小崎誠二先生(以下:小崎先生)をお招きし、GIGAスクール構想を力強く推進するためのノウハウや考え方を伺いました。前編では奈良県の教員を取り巻く環境や課題についてお話しがありました。後編では教員を対象とした研修プログラムの詳細を紹介します。

先生のしたいことを実現するための研修プログラム「先生応援プログラム」

教員を取り巻く現状を把握した上で、先生のしたいことを実現するために研修プログラムをつくりたい、そう思い20種類以上の研修を用意しました。
( http://www.e-net.nara.jp/kenkyo/index.cfm/17,0,121,html )

「先生応援プログラム」の特長

1. 職務別、コンテンツ別に利用者の声やツール(Google WorkSpace、アドビ、ロイロノート等)の使い方を学んだり、保護者を対象とした研修を行う。

2. 放課後の4時15分から45分の30分間をベースに企画する。

3. 録画でアーカイブを残しているため、忙しい先生でもいつでもどこでも好きな時間で見ることができる。

4. ポイント制度をつくっている。研修を受け、参加した感想を提出することでポイントがたまる。(本人のみ閲覧可能)

研修参加後に感想を書くと付与されるポイント

企業とのコラボレーション企画や保護者向けのコンテンツもあり、土曜日は質問をしながら学習できる研修も実施しています。

先の調査のとおり、ベテラン教員が研修を受ける機会が少ないため、オンラインで参加数に制限なく誰でも受けられるようにしたところ、通常の研修よりも40代、50代のベテラン教員の受講率が高くなりました。意識を高く持つ先生が参加してくれています。オンライン研修は録画しているので、時間の都合がつけられない方も空き時間で動画で学ぶことができます。

出張に行かずに校内でオンライン研修を受けている先生は、子ども達に自らの勉強している姿を見せることもできます。研修を受けて勉強している先生の姿をみた子どもがその様子を帰宅してから保護者を話題にしていることもあったそうです。保護者も先生の前向きな姿勢を知り、応援してもらいやすくなるのではないでしょうか。

まずはやってみる、業務負担が少ない研修づくりを行う

オンライン研修の実施において、大変なのは企画を立てる段階です。通常の業務もある中で、大きな負担にならないようにするために、いろいろな形でやってみること、準備が終わってからも無理のない範囲でできることを心がけました。研修のお知らせは文書ではなくホームページで告知し、とにかく数をこなすことを優先して、ノウハウを蓄積しています。まだまだ研修をやっていること自体を知らない現場の先生が多いことが課題です。

奈良県の先生は、全員すべてのメニューに参加できるので、是非一度ご覧になってみてほしいと思っています。4月からは少しずつ、他県の方も研修が受けられるようにお互いが研修を提供し合うなどして相互乗り入れできたらと計画を立てています。

小崎先生へのQ&A 学びを実践にするには?

【研修の相互乗り入れについて】

Q. 奈良県以外の自治体が奈良県の研修を受けることは可能でしょうか。

A. 当初は生徒の顔や名前が出るケースもあるので、限定的に扱ってきましたが、ホワイトリストでアカウントを結びつけて、自治体間で連携協定を結ぶことでお互いの研修を受けることができるようになればいいなと思います。

【内部調整について】

Q. 研修データを公開しようとすると、行政的な手続きの調整に手間がかかるのではないか。

A. 奈良県では、研修の内容はYoutubeで一般公開してもいいという前提で実施しているため、公開できない情報は最初からないという合意形成のもとで進めています。

【準備について】

Q. 企画やコンテンツ作成はどなたがおこなっているか、また事務作業はどのような体制で何人で実施されているか伺いたいです。

A. 実質的には、奈良県立教育研究所教育情報化推進部で指導主事6名程度が協力してすすめています。研修コンテンツをA~Zに分けて考えてみようという案は、3人で2日ほどでたたき台を考えました。その後は、研修ごとに担当する指導主事を選び、その指導主事に研修内容をおまかせすることで、コンテンツ内容が決まり次第実施していくという流れです。準備は、オンライン研修ですからパソコン1台あればそれでできますし、費用もGoogle Workspace for educationを活用しているため0円です。Google クラスルーム に参加登録をしてもられば、、あとは自動的に開催通知がメールで届く設定とするなど、開催のための事務作業が負担にならないように設計をしました。

【保護者の声について】

Q. 保護者勉強会における保護者の反応はどうでしょうか。

A.教育の情報化を進める上で、子どもがネット依存になるのではないかなど、保護者が不安に思う声はたくさんあるので、事前に不安を把握したうえで、必要な情報を提供しています。現在は、特に問題もなく前向きな空気感があります。

【周知方法について】

Q. 研修の認知に課題がある、というお話しでしたが、現状はどのように対応をされていますか?

A. 紙でもお知らせはしていますが、先生も管理職も、日々の連絡や情報をたくさん受け取っているので、埋もれてしまうことが多いようです。結果として、認知の拡がりは口コミが多いです。先生同士誘い合って来てもらうということを時間をかけて広げていくしかないと思っています。

【研修時間の確保について】

Q. 部活動があると16時~18時開始の研修に参加ができません。時間を生み出す方法に課題をもっていますがお考えやアイディアはありますでしょうか。

A. オンラインで実施したあと、基本的に録画(オンデマンド)配信しています。多忙な先生でもいつでもどこでも見られるようにしています。
研修はリアルタイムで受けて、生のやり取りをしたいという気持ちは理解できます。動画の強みは、いつでもどこでも自分の都合で見ることができることだと思っています。15分~30分程の動画になりますので、採点などをしながら音声だけで聞いてもよいですし、仕事をしながらテレビを付けている感覚で気になる時に集中してもらえればいいと思っています。
堺市さんの取組みとして、職員会議の最後の15分を研修にあてているという話もあります。

【今後のオンライン研修】

Q. コロナ禍が収束した後もオンラインでの教員研修は全国的に定着すると思いますか。

A. 忙しくても自分の都合に合わせて勉強ができるという利便性を考えると、コロナ禍収束後に、オンライン研修がなくなって、また集まらないと研修に参加できない状況に戻る、という可能性は低いと思います。オンライン研修は離れたところで移動時間なしで多くの人と出会えます。出会った仲間と学びを実践しようという流れは、全国的にも定着すると思っています。

参加教員の声

最後に、参加者の先生方が3~4人のチームになり、会話の時間が設けられました。一部の先生方の声を紹介します。

教育センター勤務女性
先生の負担を減らしていくためのヒントが欲しくて参加をしました。同僚と参加をしたかったのですが、都合がつかず一人で参加をしたので、同僚と話題にしたいと思っています。

高校勤務女性
私の学校では全生徒がクロームブックを持っている状況です。学内でICT研究会を立ち上げて、知識のアップデートをしています。
気が付いたことは、Googleが提供するサービス内でできること、できないことを決めるのではなく、図形を書く、縦書きの場合など不自由になると感じた際はウィンドウズの方が便利なケースもあります。ICTツールが文房具のように使えるようになると嬉しいなと思いました。

高校勤務男性
一人で考えなくていいんだという、心の支えが見つけられました。TIが主催した会議に参加した時も、自治体の方の意見が聴けて、日本全体の動きを聴けたので広めていこうと思いました。

先生も子どもも一緒に学ぶ、小さな積み重ねが教育業界のICT化、活性化に繋がる

奈良県の取組みは、どこでもできることです。1人のスーパーマンが努力して実現するのではなく、できないことはどんどん仲間に任せて協力して進めていく。子ども達にも「まずやってみよう!」と言っているのだから、先生も思い切りよく実践をしていきたいですね。

今までは先生がまず自分に情報をインプットして、自分が理解してから子どもに伝達するという形が一般的でしたが、新型コロナウイルスのこともあり、とてつもないスピードで社会が変化している今、先生には、生徒と一緒に学びながら進むという力が求められていると思います。チャレンジしたり勉強したりする先生の背中を見せながら、子どもと一緒に学ぶ先生が増えることを願います。本日はありがとうございました。

●小崎誠二先生プロフィール
1988年 奈良県の高等学校の国語科・情報科の教諭として20年勤務。
2007年 奈良県教育委員会事務局・奈良県立教育研究所で勤務13年勤務。目を迎える。
文部科学省ICT活用教育アドバイザー
文部科学省 教育データの利活用に関する有識者会議委員
奈良県域GIGAスクール構想推進協議会 事務局長
奈良教育大学教職大学院准教授奈良県教育委員会

Apr 10, 2021 | category : お知らせ


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