第3回 アルムナイラボ 2022年1月16日(日)より
ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)2期生の特別非営利活動法人 HUG for ALL代表理事 村上綾野と申します。現在、週3日ほど株式会社ベネッセコーポレーションで契約社員として働き、週4日ほど特別非営利活動法人 HUG for ALLで活動しています。
今回のテーマ「児童養護施設でくらす子どもが学校で困っていること」について、皆さんとお話をしたいと思います。
安心できる居場所と生きる力
HUG for ALLは、児童養護施設の子どもたちが「安心できる居場所」をみつけ、「生きる力」を身につけられるように子どもたちの学びを支援する団体です。「安心できる居場所」は、子どもたちと施設職員さんの安定した関係性と信頼できる大人たちによってできる、子どもたちの「心の居場所」です。「安心できる居場所」をつくりながら、これからの社会を生きていくために必要な「生きる力」を養ってもらうサポートをしています。
そもそも児童養護施設とはなにか、入所するまでの流れ
児童養護施設は、家庭での養育が困難な子どもたちが生活をしながら学校生活を送っている施設です。全国に約600ヵ所の施設があり、約2.5万人の3歳〜18歳ほどの子どもが入所しています。
子どもたちが一時保護されて施設に入所する経緯をたどると、子どもが虐待を受けている、親が精神疾患を抱えているといった場合や、貧困や親との離死別といったケースがほとんどです。
一時保護は最大2ヵ月と法律で決まっていますが、現在は実質1年以上保護されているケースもあります。一時保護された後は児童養護施設に入所する仕組みになっています。
施設に入所する子どもは、家庭環境に困難を抱えることが多く、落ち着いて家庭で勉強することが難しい場合が多くあります。また、一時保護中は学校に行くこともできません。
児童養護施設に入所すると、今までと違う環境で生活を始めないといけません。多くの場合、住む場所が変わるだけではなく、学校も転校することになります。子どもたちは、大きな環境の変化に直面するのです。
増加し続けている虐待と障害を抱える子どもたち
以前と比較すると虐待された経験を持つ子どもや、心身に障害がある子どもは年々増加しています。このような子どもたちが増えるということは、施設職員さんが子ども一人ひとりにかける時間が増えるということを意味します。
施設の形も変化してきています。もともとは20人以上の子どもたちが暮らす大舎制といわれる、大きい食堂と4人部屋がいくつかある施設がメインでした。
最近では小規模グループケアといわれる、一軒家のような建物に6人から8人ぐらいの子どもが共同生活を送る家庭的な施設が増えてきています。大舎制の施設もまだまだ多くありますが、施設の形態によって子どもの生活や職員さんとの関わりが大きく変わっていきます。
児童養護施設の子どもたちが学校で困っていること
ここからは「子どもたちが学校で困っていること」を、私が出会った子どもたちの事例から具体的に話していきたいと思います。
事例1:環境の変化についていけない
一時保護所から児童養護施設へ入所する子どもたちは住んでいる場所のみならず、学校でも新しい人間関係をつくっていく必要があります。児童養護施設に暮らす子どもたちは傷ついた体験をもっているので、精神的に不安定になりやすく「環境変化についていけない」子どもが多くいます。
入所した子どもたちは努力をみせてくれていますが、1年、2年たつうちに不登校になる子が多くいます。不安な気持ちや苦しみを抱えてしまうのだと思います。
事例2:学校の勉強がわからない
家庭の事情や一時保護期間中に学校へ行けないため、学習内容が抜けている子どもたちが多くいます。カタカナや漢字があまり読めなかったり、ローマ字がわからなかったりします。1番多いのは算数における特定の単元がわからないケースです。分数や割り算がすっぽり抜けたまま入所してきます。
子どもたちが何がわかっていないかを理解しないと、子どもたちにあったサポートをすることは難しいです。実際に私が出会った子のなかにも、学校で十分なケアがされないまま授業が進み、全く授業が理解できないという子どももいました。
地頭がよくても、勉強に苦手意識を持って「自分はどうせできないから」と諦めてしまう子どもがいる現状です。
事例3:人との距離感や適切なふるまい方がわからない
施設の子どもたちは、人とのコミュニケーションが苦手な子が非常に多いです。特に幼少期のころに虐待を受けてる子は、人との距離感がわからなくなり、不自然なほど距離が近くなる場合があります。
また、保護者からの暴力にさらされてきた子どもは、他者との関係性においても同じように暴力や暴言が多くなってしまう場合もあります。
人との距離感がわからない、適切なふるまいをすることが難しい子どもがいます。そのため、施設のなかで子どもたちは、仲良く楽しそうにすごしていますが、学校ではうまく友達が作れない子どもも少なくないようです。
事例4:「かわいそう」と思われたくない
子どもたちは「かわいそう」と思われるのを嫌います。
例えば、1/2成人式のように10歳の時点で子どもの成長を祝う行事も、ほとんどの場合、家族の協力が不可欠です。そのため、家族と離れて暮らす施設の子どもたちには、この1/2成人式という行事は苦しいものになりがちです。しかし、一方で「その子のために1/2成人式を辞めよう」と言われることも、子どもたちを苦しめます。「自分のせいで行事がなくなった」と感じてしまい、「みんなにかわいそうだと思われているんじゃないか」などと感じてしまうこともあるのです。
事例5:一般家庭と違う制限がある
施設にいるからこそ生まれる、一般家庭とは異なる制限があります。授業のためにスマホにアプリをダウンロードしようとしても、施設が管理するスマホは強力なセキュリティがかかっていたり、そもそもスマホを持ってなかったりする場合があります。
一般家庭と違いがでてしまい、施設に住みながら学校に通う子どもが気まずい思いをしてしまう話をよく聞きます。ご飯やお風呂、寝る時間も施設のルールがあるので、友達と遊んだり、TVやYouTubeを見る等のちょっとしたことでも、物理的に難しい場合もあります。
「施設にいるので出来ません」は、子どもたちにとってはいいづらいのです。みんなと同じ体験ができずに「しんどいな」と思う子どもたちがいることを、知っていただければなと思います。
子どもの未来を一緒に見守る活動
Syncable:子どもたちの未来をいっしょに見守る仲間になりませんか?
HUG for ALLでは、子どもたちの未来を見守る仲間を募集しています。児童養護施設等で暮らす子どもたちに対して、「生きる力」を育む体験プログラムの提供をするため、得意分野を生かして子どもたちを助けたり、子どもたちが困ったときに相談に乗ってくれる仲間を200人集めたいと思っています。
現在、仲間になっていただく意思表明として、「1コイン寄付キャンペーン」を実施しています。Syncableというサイトで公開していますので、施設の子どもたちをもっと知りたい、他の教員にシェアしたい、施設の子どもたちが何か困っていたら助けたいと思ってくださる方は是非、仲間になってくれると嬉しいです。
子どもに未来を、HUG for ALLの思い
私たちHUG for ALLは、子どもたちだけではなく関わってくださっている皆様にも、HUGする気持ちで活動していきたいと思います。ぜひ、応援いただけるとうれしいです。