若手教員なのに・・・校内研修を提案するという葛藤
伊藤先生:
教員生活5年目で、ティーチャーズ・イニシアティブ4期(以下「TI」)に参加しました。私が自校で課題に感じていたのは、職員室が教科で分かれていることで他の教科の先生たちとの会話が少なく、意見交換がされていないことでした。生徒に「対話が大切」と言いながら、先生同士ではコミュニケーションをうまくとることができていないと感じていたのです。先生というのは、人前に立って話すのは得意ですが、お互いを尊重して向き合う対話は、案外下手なのかもしれません。TIプログラムの8ヶ月間、仲間たちが学校現場を改善しようとトライするのを見聞きし、その行動力に触発されていました。
一方、TIに参加したものの、私は前年に公立校から現在の私立高校に転職したばかりの教員で、職員室でも年次は一番下です。なにか動き出したいと思っても、他の先生に賛同してもらえるのか、出過ぎた真似をしてしまうことにならないかと心配していました。そんな中、コロナ騒動が起き学校が休校になったのです。生徒は登校せず、先生たちだけが学校にいるという状況でした。先輩教員に「TIで学んだことを生かして、校内研修をしてみたい」と思い切って相談したところ、すぐに「やってみよう」と後押しをしてくれました。
TIで仲間と開発したワークショップを応用
TIで体験した学びに「先生たちが参加できる4時間のワークショップを開発する」という課題がありました。「ラボ」とよばれる少人数のグループで、何度も話し合いながらオリジナルのワークショップを開発するのです。自校の校内研修で、この時に開発したオリジナルワークショップ『LIFE STORY』を使ってみようと思いました。
『LIFE STORY』は参加者の自叙伝を出版するという設定で進行してゆくワークショップです。自叙伝には、必ず人の心を動かす何かがある、偉人でなくてもどんな人にでも素晴らしいストーリーがある、そんなコンセプトで開発されたものです。
「あなたに自叙伝を出版してほしいというお話が来ました。その出版社の人がインタビューをするので、ぜひお話を聞かせてください・・・」そんな導入で始まり、ペアになってインタビューを進めていきます。話し手は自叙伝に書く2つのトピックを選びます。
インタビュアー役は話し手に質問を重ねて、具体的な話を引き出しながら、自叙伝がつくれるように深堀りしていきます。話し手が過去を振り返り、インタビュアー役に自己開示していく過程で相互理解が進み、心の壁が低くなっていくことが期待できます。十分に語ることができたら、次に自分が持っている無形の資産、例えばスキル、健康、友人関係などをふりかえり、足りないもの、足りないからこそできていることを考え、どうなったら最強の自分になれるかを考えていき、最強でない自分を認めたうえで、最後には未来の自分から見た自叙伝を完成させます。
校内研修で起こったこと
校内研修では、プライベートも含めて一歩踏み込んで話すことで、今までに感じたことのない対話の楽しさを同僚の先生たちに感じてもらいたいと思いました。そのために、研修の導入では、まず自分自身の話をかっこつけずにさらけ出すことにしました。TIのプログラムで書いた”私の履歴書” をもとに、写真を見せながら、自分が教員になった原点を伝えたのです。ドキドキしましたが、自分が心を開いて話すことで、参加する先生方が、自然と心を開けるような場をつくろうとしました。
校長先生も含め、先生方は熱心にワークに取り組んでくれました。普段は話題にしないような、職場の先生方の過去、現在、未来をワークを通じて垣間見ることができたのか、参加者からは前向きなフィードバックが寄せられました。
「相手の先生の面白さを味わう機会になって楽しめた」
「大きなテーマを掲げて、年に数回実施すると先生間の繋がりが増すと思う」
「初めて先生方と本音の部分をさらけ出せた」
「このようなプログラムを作る研修に参加していたんですね、少し羨ましく思いました」
「新しい企画で楽しかった」
実は、この研修内容を詳しくは職場の先生方には事前に伝えておらず、参加型のワークショップに驚かれた方もいたようです。今後回を増すごとに多くの人を巻き込めればよいと思っています。最初は参加者の反応に不安がありましたが、今回の研修で職員室での会話が増えたように感じています。もちろんすぐに状況が変化することはないと思っていますが、今後、第二弾、第三弾と回を重ねて対話ができる学校にしていきたいです。