教育業界のオンライン化は無謀か元メーカー営業マン教員の公立学校におけるICT化への挑戦

コロナ禍でも、できることは必ずある

青野先生:
私は13年間大手メーカーで営業職を経験し、長年温めていた思いを実現するために教員の道を選びました。現在は東京都の中学校で国語を教えています。教員生活が4年になった2020年、新型コロナの流行により生徒は登校ができなくなり、教育現場の在り方を再考する機会が訪れました。

 学生だけでなく、保護者の負担も大きくなる中でどうやって安全に良質な学びを提供できるのかと考えたときに、普段自分が生徒に伝えている「失敗してもいいから挑戦しよう」という言葉が頭に浮かびました。生徒の顔を思い浮かべると動かずにはいられない、突き動かされる思いがしたのです。

 自分が勤めている学校は、とにかく協力的で愛にあふれる先生が多く、私が相談した時も、学校としてどのようにこのコロナ禍に対応していくかを一緒に考えてくれました。

まずは気軽に、遊びからのオンライン化

 時を同じくして、生徒向けに様々なインターネット学習ツールが無料でリリースされていました。学級通信に情報をまとめて生徒に伝えてみましたが、終業式で生徒と再会した際に聞いてみると、ほとんどの生徒が見ていないことが分かりました。情報を伝えるだけではダメだということがわかり、ティーチャーズ・イニシアティブで出会った、戦友とも呼べる先生たちに連絡をしました。一人は、教壇に立ちながら教育機関向けにICT化を推進するコンサルタントとして独立した田中先生、もう一人は公立中学校に勤務する若手教員で、コロナ禍のなかでいち早くGoogleに申請を行い、学校にPC(Googlechrome)を100台ほど手配した中村先生。そんな凄腕教師二人のアドバイスもあり、私が勤める学校でもオンライン環境整備を進めました。

 いきなり100点のオンライン授業を目指すのは難しいので、小さく失敗して成功体験を重ねるために先生にオンライン会議ツールを使ってもらう取り組みをしようと考えました。まずは遊びからはじめようと、学校内の教室を繋げる形で先生同士の食事会をオンラインで実施しました。初めてのオンライン食事会でしたが、多くの先生が参加して盛り上がり、同日夜には「Zoom Bar青野」と称して飲み会を開催、オンライン会議ツールの可能性や、使い勝手のよさを体感してもらいました。

 先生の中には高齢の方もいますし、まったくPCを使っていない方も多いので、そのような先生方が使いやすいように一般企業で培ったスキルを生かしてマニュアル作りを私が担当しました。新任の先生でプログラミングができる、かなり強力な助っ人にも相当助けられました。

自分たちでオンライン授業を作る、校長からもアドバイス

 緊急事態宣言が続く5月、学びが止まる中、生徒や保護者の負担を減らしたいと、動画授業を撮りためることが決まりました。

 私の学校はICT研究指定校という、教育現場にてICTを進めるために様々な活動を行っている学校ということもあり、校長も私たち現場の動きにかなり協力的で、動画の話をした直後に撮影するための資材を揃えてくれました。なんと、校長は500本以上にわたる全ての動画をチェックしていて、改善点や良い点をそれぞれの先生に共有をしてくれました。最初は凝りすぎてしまったり、情報量が多かったりと課題もありましたが、今は自信をもって提供できるクオリティーになっています。先生方の努力、行動力には私も心動かされます。

生徒全員に学びの環境を整えたい、生徒と保護者に意見を聞き改善を重ねる

 動画授業を生徒に提供する際に課題となったのがログインとセキュリティーです。ログインは慣れていないと難しいので、相談窓口を設けて電話やメール対応を行いました。また、セキュリティーに関しては、子どもが有害サイトなどにアクセスできないように設定を強化していたり、親子でアカウントを共有している場合があり、スムーズにインターネットサービスが使えないケースが往々にしてあるため対応に苦労しました。生徒の家庭にあるPCやスマホを利用するため、インターネット環境がない子には一部学校の施設を提供するなど、隔たりのない機会を提供しようと働きかけました。現在は、保護者や生徒にアンケートを取り、動画や環境の改善を重ねています。

 部活動でもオンライン活用ができないかと、私が顧問をつとめるサッカー部ではオンライン部活動を実施しました。同じ時間帯にオンラインで生徒たちをつなげ、筋トレやトレーニングを行いました。せっかくの機会なので、生徒と保護者から意見をもらおうとアンケートも実施しました。保護者からは、「子どもの嬉しそうな様子をみて、直接会えなくてもコミュニケーションが必要だと思った」、「一人だとだらけてしまう。生活が乱れて集中力が散漫になっているので、オンラインでも会うことが大切」と前向きな意見がもらえ、生徒からは、「オンラインでいいので部活は続けたい、みんなも頑張っていると聞くと、自分も頑張れる。」と、手ごたえを感じる回答が相次ぎました。

 私は長年一般企業で働いていましたが、自分がもともと社会人経験があったからうまくいったのではないと思っています。こういった取り組みはだれでもできる。ティーチャーズ・イニシアティブに参加をして再認識したのですが、小さな挑戦でもいいから、少しの勇気を出すことで少しずつ何かが変わると思います。ティーチャーズ・イニシアティブで会った仲間や、周りの先生だけではなく、校長先生も提案を後押ししてくれる、奇跡的な環境がある中で動けたのは本当にありがたいことだと思います。点を沢山つくって線になり、面になり、ムーブメントになるという実感があります。やれることを探すことは誰でもできると思っています。今日も、教員になった時の思いを胸に挑戦を続けます。



青野先生が学校でオンライン授業に取り組んだ様子が取材されました。
記事はこちらからごらんください。
「休校中に授業動画500本作った公立中の“奇跡”、新卒から60代まで全教員の『学びの空白を作らない』戦い」https://internet.watch.impress.co.jp/docs/special/1265043.html

Jun 3, 2020 | category : 実践報告


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