建設的な会話が少ない職員室、この空気感をどうにか変えたい

ティーチャーズ・プログラム修了生、八木邦明先生の実践報告を紹介します。八木先生は静岡市立の小学校で校長をつとめ、早期退職後は一般社団法人シヅクリを設立し、学校と社会を繋ぐ活動(シヅクリプロジェクト)をスタートしました。校長時代に職員室を改革し、対話で地域を繋げようとしたそのこころみとは。

 私が課題に感じていたのは、職員室の対話そのものでした。新たに挑むことには後ろ向き。会議1つとってみても、前年踏襲型の提案が並ぶ予定調和の雰囲気が流れており、そんな空気を変えたいと思いました。
 どんな生徒も教師次第で変われる、私はそのように実感しています。暴力行為が過ぎて施設に行くような生徒もいる生徒指導困難校での勤務経験もあるのですが、先生が変わると生徒も変われるのです。私が目指すのは、「誰もが自由に発言でき、新たな価値が生まれる職場」です。職場の空気感を変えて生徒にも相乗効果がある、そんな環境を作りたいと思っていました。

「子どもに対話の文化を育みたいので、まずは先生方でやってみて考えませんか」

 ティーチャーズ・イニシアティブで対話の力を体感し、その文化を子どもたちに醸成したいと思いました。先生たちにも、「子どもに対話の文化を育みたいので、まずは先生方でやってみて考えませんか」と伝えました。まずは4~5人で構成される小グループを作り、一つのテーマを決めアイデア出しを行いました。自分も他人も決して否定をしないことを条件に、発言の意図を汲み、なぜそのように考えるのか理解して自分の意見を重ねていく作業です。

 いきなり状況が変わることはもちろんないと思いますが、小さい取り組みを積み重ねようと決めました。そんな中で、とても心強いパートナーが現れました。それが教頭の小澤先生です。小澤先生は私との会話に時間を割いてくれ、2人の間に対話ができ、ときには生成的な対話に発展することもありました。会議では役割毎ではなく、席順を自由にしようと提案をしてくれたり、前向きなアイデアがたくさん生まれました。

 職員室で対話の文化を作っていくと、現場の先生から「すべての会議を対話形式にしたい」という発言が出始め、現場教員が積極的に対話に取り組むようになっていきました。
 学校代表の教員に、対話の文化が浸透している学校に見学に行ってもらい、学べる点を共有してもらうこともしました。ある日、この派遣した教員から「学校の当たり前を見直しましょう、”〇〇すべき””という、あるべき論を探して見直しましょう」という発言がありました。自分が就任した時、予定調和ばかりの会話だった職員室から、そのような声が出てきた。その瞬間は本当に嬉しかったです。

 対話 の文化を浸透させるには、校長である自分自身を丸裸にしよう。そのためにリーダーズ・インテグレーションという、リーダーと部下の信頼感を高めるためのワークショップを行いました。リーダーズ・インテグレーションで行ったことは、まず始めに私が会の趣旨を説明し、退席。その後、教頭先生がファシリテーションして、八木校長について知っていること、知りたいこと、知っておいてほしいこと、改善してほしいことを先生方で書き出していきました。なるほど、現場の先生は思っている以上に私を見ているなという気づきがあったり、匿名性をとるので、面と向かって言えないであろう要望もありました。現場の先生が何を期待しているのか、何を疑問に思っているのか、何を改善してほしいと思っているのか、参加者全員が認識する機会となりました。また、先生方が書き出した全ての項目について、私からコメントを作成し、校長室だよりで返しました。私が何を考えているのか、一層先生方と理解を深める良い機会になりました。

保護者と地域を巻き込み活動を開始

 先生の対話力を上げ、より効果的な教育環境を作ろう、そう考えると自ずと学校内にとどまらず、保護者や地域をも巻き込むという選択が出てきました。

 保護者会では、保護者と教員で対話をしましょうといってもピンとこないと思い、懇親会と称してクッキーと紅茶を出し、柔らかい雰囲気で話し合いが進むように工夫しました。家庭でも親子の対話の機会をつくってほしいと願い、親御さんにも対話を実感してもらう機会をつくろうという試みでした。また、学級保護者会の折には、学年を超えて保護者が対話する企画を立てました。事前準備として、先生方で保護者役と先生役に分かれロールプレイングを行ったことも功を奏し、当日はスムーズに進行することができたと思います。明るい雰囲気の中、保護者から子育てに関する悩みや困りごとを共有し、互いに共感したり、気付きを得たりすることができました。

 地域との話し合いでは、住民や事業所の方々に集まってもらい、地域座談会(地域の方々が教育を対話する機会)を設けました。予定調和的な硬い話し合いにならないように、趣旨を説明したり、ここでもクッキーや紅茶を用意し、音楽を流してカフェのように話しやすい雰囲気をつくったりしました。参加者の満足度が高く、年度末の実施にもかかわらず続けて2回も実施することができました。
小さくはじめて周りの先生たちを巻き込みながら、保護者や地域にも豊かなコミュニケーションの場を広げていく、先生の対話の練習にもなり外部に味方も増える、良いこと尽くめの取り組みとなりました。

「人は変化するのではなく、変化させられるのが嫌なんだ」校長が気づいた自らの思い込み

 たしかに、変化の激しい社会に新たな価値を生み出すために変革を求め対話を増やそうと、しつこいくらいに言っていましたが、教頭の環境整備と先生各々の努力のおかげで対話の文化ができてきたと思っています。就任当初、中学校から学校種を超えて異動した自分には、小学校の先生方は計画を大事にし、変化することを好まない、と見えていました。ところが、後に異動された先生方からもらう手紙の中に、「新たなことにたくさん挑戦ができて幸せだった」という言葉をもらい、感激すると共に考えさせられました。
 「小学校の先生は、とか、ベテランの先生方は、変化を好まない」という固定観念を持っていたのは、自分なのではないか、思い込みに盲目にならず、視野を広げないといけないと反省した瞬間でした。
 人は変化が嫌なのではなくて、変化をさせられるのが嫌なんだということに気が付きました。職場の改善に邁進するのと同時に、自分自身も進化しないといけないと思っています。

Jun 3, 2020 | category : 実践報告


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