第4回 アルムナイラボ 2022年3月13日(日)より
(一財)地域・教育魅力化プラットフォーム、ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)1期生の中村健吾と申します。私は島根県松江市に生まれ、教員家系で育ちました。高校卒業後は、広島で浪人後、京都、カナダ、北海道で大学、大学院生活を送り、心理学の研究に没頭していました。
大学院卒業後は東京の人材企業で事業開発をしていましたが、TIに出会ったのをきっかけに教員免許を取得して教育の世界で生きるという、想定していなかった人生を歩んでいます。
すべての始まりは保健農園ホテル フフ山梨から始まりました。TIの児美川ラボにいらっしゃった教員の方々に感化され、教員になろうと決意しました。34歳から2年間通信制の大学に通って教員免許を取得することになり、人生が変わりました。
教員採用試験のタイミングで、興味本位で地元の高校生が一同に会する課題解決学習の合宿を見学しに行ったところ、世代や立場をこえたコミュニティで「ごちゃまぜ感」「平場感」「丸裸感」と、自然体で過ごす参加者の魅力に魅かれました。そこでの経験があって、教員ではない形で、地域ならではの教育を全国に推進する地元の財団の立ち上げに関わろうと思い、Uターンを決意しました。
教育に関わる私が大事にしているのは、だれもが日常にさまざまな出会いと機会にあふれて、つかめる状態であること。自分と他者を大事に活かしあって可能性を広げあえる環境をつくる一助になることです。
パターン・ランゲージを通じて理解を深めた、学校と地域をつなぐ人々
お話をしていく前に共有したいのが、私が島根県に来てから財団でつくってきた「学校と地域をつなぐパターン・ランゲージ」です。パターン・ランゲージとは、 暗黙的に認知・使用される指針や価値観を形式化したもので、主に街づくりや建築デザインなどの創造過程を支援する考え方です。
このパターン・ランゲージを利用して、学校と地域をつないでくれているコーディネーターの工夫やノウハウを対話形式で抽出し、42個の言葉にしました。自然とおこなっていることを「ことば」にすることで、多くの人が実践につなげられるようになりました。
今回は「地域×教育コーディネーター」について共有しながら、学校と地域をつなぐ活動について考えていただくきっかけとなるお話しができればと思います。
地域×教育でおこなっていること
私は島根県にUターンして、学校や地域の方と一緒に環境づくりをおこなっています。「学びの土壌」のなかでも主に「越境(地域みらい留学)」の推進をおこなっています。
越境の新たな選択肢「地域みらい留学」を立ち上げて今日にいたります。「地域みらい留学」とは、都道府県の枠を越えて、地域の公立高校に入学し、充実した3年間を過ごす新たな選択肢になります。
現在、全国にある高校の約10分の1の430校をこえる高校が全国から生徒募集をしており、
令和3年度は全国から500名の方が都市部から「地域みらい留学」を利用して中山間地に入学しています。学校の統廃合や存続の文脈があるなかで、教育×地方創生の取り組みとして、受け入れ側の学校が年々増えてきています。
令和4年度には全国生徒募集をおこなう公立高校が30道県、85校と増えてきています。進路を決める生徒側からすると、ますます選択肢が増えていきます。多様な考えや進路が求められているなかで、昨年の「地域みらい留学」合同説明会における予約者数は2012組4024名でした。日本全国においていろんな選択肢が求められるのではないかと、あらためて感じています。
2年前には、高校2年生が1年間留学できる「地域みらい留学365」という授業を内閣府と立ち上げました。高校に入学してから選択肢がほしいという意見から、地域で越境体験をつくり、令和3年度は9道県15校で実証しています。
高校と地域の協働が教育と地方創生に及ぼす効果
「高校と地域の協働が教育へつながっているのか」を調査した結果が2022年3月10日に公表されました。高校と地域が協働することで生徒の資質・能力が全般的に高まっているという調査結果が発表されました。コーディネーターがいる場合は、主体性・探究性・協働性・社会性の項目が高い傾向にあります。学校と地域をつなぐ役割が大事なのではないかと考えています。
島根県で地域と協働することを以前から実施していた県では、コーディネーターの配置する学校が進んでいます。2017年だと31名ですが2020年では50名に増加し、年齢層でも20代から40代まで幅広くなっています。特定の高校だけではなく、島根県全体に配置されてきたことで、どこにいてもコーディネーターがいる状態になっています。
高校と地域をつなぐコーディネーター機能とは
コーディネーターの役割は大きく分けて2つあります。1つ目が「高校におけるコーディネート機能」、2つ目は「地域におけるコーディネート機能」です。
「高校におけるコーディネート機能」は主に地域探求や活動の支援、地域との連携・協働に係わる研修の企画・実施、ミーティングへの参加や情報交換をするのが役割になります。
「地域におけるコーディネート機能」は住民との関係を築きながら地域と高校をつなぐ役割です。学校だけではなく地域の方との関係をつくっていき、地域資源(人、もの、こと、課題等)を教員につなげていくことが大きな役割になります。
1.「高校におけるコーディネーター」奥田さん
実際に活動しているコーディネーターを紹介します。1人目は、「高校におけるコーディネーター」として教育設計をしている奥田麻衣子さんです。現在は島根県教育委員会で働いており、もともとは島根県立隠岐島前高等学校で約6年間コーディネーターをされていました。
役割としては「グローカル」なカリキュラムをつくっています。日本だけではなく海外をつなげてカリキュラムの設計や事業計画書の制作、さまざまなゲストを連れて交流する機会をつくっていました。奥田麻衣子さんと教員の良好な関係性があるからこそ、いい取り組みができていると感じました。
2.「地域におけるコーディネーター」吉村さん
2人目は島根県川本町で「地域におけるコーディネーター」をされてる吉村朋子さんです。元ユニクロの店長として仕事をしており、地元に戻られてからは約8年間コーディネーターとして学校外からいろいろなものをつなぐ役割を担っています。
現在、吉村朋子さんと地域みらい留学を一緒にやらさせていただいています。教員と一緒に高校のウェブサイトを立ち上げ、合同説明会では、生徒のみならず地域の方も説明会に巻き込む企画や運営をしていただきました。オープンスクールでは、生徒が現地を確かめたうえで受験を検討できる企画や運営をしています。パワフルで教員に頼り頼られる、吉村朋子さんだからできるコーディネートだと思います。
生徒の未来に注目をして活動を広げていく
最後にお話を聞いてくださった先生たちからご意見をいただきました。
参加者「地域を巻き込んだ学びの創出は本質的な学びにつながるだけでなく、人口減少や人口の一極集中が顕著な日本のためにも重要だと思います。私も学校で授業力を磨くだけではなく、コーディネーターの資格をとりたいと改めて思いました」
こうして興味をもってくださる方がいらっしゃるのはありがたいです。ほかにも、「こうした活動を通してどのような結果が出ているのか、評価をしていくのかと」いうご質問もいただきました。ご指摘のとおり、学校、自治体評価はこれから取り組みたい課題でもあります。地域留学を経験した生徒のキャリアがどうなっていったのか、成長度なども把握しながらよりよい取り組みにしていきたいと考えています。