若手からどう学校を変えていくか

第4回 アルムナイラボ 2022年3月13日(日)より

 千葉県松戸市小金北中学校(以下:小金北中学校)で教員をしている中村柾と申します。1994年生まれで教員は4年目になります。小金北中学校ではICT推進校の推進委員として活動しており、現在は中学3年生の担任をしています。(2022年3月現在)

参照:オンライン寺子屋

 今までの活動として、2020年5月にオンライン上で生徒に学びの機会をあたえるサービス「オンライン寺子屋」を立ち上げました。結果としてICTコンテスト「ICT夢コンテスト2021」で総務大臣賞を受賞させていただいています。

 今ではこうした活動に取り組んでいますが、葛藤していた時期がありました。その時にティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)3期に参加しました。たくさんの先生方と出会ってアドバイスをいただきながら学校での挑戦に取り組むことができ、TIには感謝しかありません。

教育への想い・独自の授業

 私が通っていた海外の大学教授から紹介をうけて、アフリカ・インド・ホンジュラスに滞在して教育実習をしました。教員になったのは南米から帰ってきた2週間後でした。私自身、今までの経験で得るものが大きかったので、生徒たちにもできるだけいろいろな世界をみて可能性を広げてもらいたいと思いさまざまな授業を展開しています。

  1. 留学生を呼んだ英会話の授業

 近くの大学と連携して留学生6人を呼び、英語で交流をしました。英語が大事というよりも、実際に話すことが大事だと考えて実施しました。

生徒のコメント
・英語で話せれば他国の方ともコミュニケーションが取れると気付きました
・本気で留学したい
・英語をすごく話せるようになりたい

 大人や教員が教えるよりも、生徒自身で実感することに何倍も価値があると思っています。

 留学生だけではなく株式会社DeNA Games Tokyoさんとコラボをさせていただき、キャリア学習をおこないました。ゲームやデザイン、プログラミング、音楽、アートなどについてお話しいただきました。教員として働いた4年間で、計85名の多様なゲストをオンライン又はオフラインで講師としてお呼びしました。こうした活動を通して生徒の世界や可能性を広げたいと考えています。

  1. Education×Technology

 授業はテクノロジーを使って生徒の学びをより主体的にしていこうと意識しています。積極的にICTツールなど活用すると、生徒が自主的にPowerPointで資料や動画をつくるなど効果的な学習を進めてくれています。

  1. クラウドファンディングを用いた授業

 生徒に1歩踏み出す勇気を持ってもらいたいと思い、クラウドファンディングを用いてミャンマーで100人インタビューをしました。インタビューの様子を動画にまとめて教材をつくってみるといった新しい取り組みに挑戦しています。

授業で取り組んだインタビュー:100 Interviews in Myanmar NO.1 ~Japanese English teacher~

 こうした取り組みは、幅広い生徒に対して提供したいという気持ちがあり、私は比較的教育の自由度がある私立ではなくあえて公立中学校の教員になりました。

若手からどう学校を変えていくか

 主にコロナ禍を機に取り組んできたことは下記5点です。

  1. オンライン授業実施
    2021年9月にデルタ株がはやったときにオンライン授業が完全にできるようになった。
  2. ライブ配信に対応
  3. 生徒は毎日PCを家庭に持ち帰れる
  4. オンライン授業日も学期ごとに設定
    来年度も会議で月1回はオンライン授業をおこなう。今後の非常事態にそなえて習慣にする。
  5. オンラインイベントの開催
    コロナで実施できなかった合唱コンクールの代わりに、動画コンクールやオンライン生徒会交流を行った。

 現在では全国的にオンライン授業が実施できる状態になってきたと思いますが、私が在籍している学校は校長先生がICT推進校に手をあげてくださり、ギガスクールのギガタブレットの導入・オンライン授業も市内で1番早く取り入れました。

学校を変えたアイデアが生まれる7段階の過程

今ではICT活用が浸透していますが、文化になったといえるまでには長い道のりがありました。具体的におこなったステップを紹介していきます。

STEP1. 課題の発見

 学校を変える文化を作るためには、まずは「やりたいこと」や「課題を発見すること」を見つけることが重要です。

【やりたいこと、課題】
・英語を教えているのに話す機会が少ないので、増やしたい
・学校外と話す機会がないから、作りたい
・コロナ禍の状況なのにオンライン授業ができないから、開始したい

STEP2. 情報収集

 課題を発見した後はインターネットを使って知り合いに聞くなど、いろいろな方と連絡を取りながら情報収集していきました。Facebookで呼びかけた際は、知り合いの方やTIの方に返信をしていただいて、アドバイスをいただき140台のPCを借りるアクションにつながりました。

STEP3. 提案

 集めた情報をまとめ、提案資料やガイドラインをつくりました。自分がつくったガイドラインを参考に市内のガイドラインもつくられていきました。

STEP4. 承認

 学校内でICT導入の承認を得るために、まずは賛同していただける教員を増やすところからはじめました。リベラル・トラディショナル・若い・ベテランと教員を4象限で振り分けていきます。リベラルで若い人から火をつけるために、オンライン若手研修会を開き徐々に仲間を増やしていきました。

 教育委員会や校長先生に直接お話しもしたのですが最初はうまくいきませんでした。そこで、一緒に取り組みを説明してくれるキーパーソンをさがしました。キーパーソンになったのは陸上部で全国1位に導いた教員でした。一緒に取り組みを推進して力強い協力者が増えていきました。

 大きなことは一気にできないので、自分のクラスを巻き込み、次は学年全体へと少しずつICT化を進めました。「検証」という言葉を使って「試してダメだったらやめますよ」と伝えると挑戦がしやすくなり、取り組みが広がりました。欠席フォームを導入したときは「そんなのでいいの?」「やっぱり電話が大事じゃない?」という意見が寄せられましたが、結果としてデルタ株の蔓延時にあった800件ほどの問合せもICT化導入で電話対応をしなくても解決できるようになりました。

STEP5~7. 実践、改善から文化へ

 オンライン授業など実施したあとはアンケートをとります。うまく行ったこと、改善することをアンケートから振り返ります。そして、新しいことをする際は、1回目から期待値を高くしないことです。失敗するのは当然ですから、事前に「成功しないかもしれません」と教員に周知しながら実践に移していきました。アンケート結果を繰り返し共有して「北中ICT通信」という情報発信などを繰り返していくことでひとつの文化となりました。

日頃の信頼が大きな鍵に

 こうしたステップも、前提として日ごろの信頼関係があっての話だと思います。学校の全体像を考えて、周りの教員に共有をする、そして協力してくれる方々に感謝をお伝えするなど小さい関係構築から進めていくのがすごく大事なことだと思います。

1年半を振り返って気づいたこと

 コロナ禍に突入したことで、今まで教育現場にあった「当たり前」が見直されました。混沌とした現状に対しては誰が最適な知識を持っているのか、教員の経験年数では計れなくなったと思います。若手教員が「なんでこうなってるんですか」「これできませんか」と抱く疑問が役に立つようになったとも言えると思います。

 もう1つの気付きは、「子どものために」という言葉は人を動かす言葉だと身をもって感じました。若手教員、ベテラン教員関わらず「子供のため」となると多くの教員が動きたいと思ってくれるようです。

 推進する際に重要だったのは「批判されたくないから今のやり方を変えたくない」とおっしゃる教員がいる点です。失敗したときのことを不安に感じているからです。

「では誰が責任を取るのか」

 不安な気持ちがあるのは当然です。学校全体を小さく変えるためにも、何かあったら全部自分が責任をとろうと思い、取り組むようにしました。次第に「中村さんがやるならやるよ」と賛同してくださる方が増えていき、最終的に市内ICT推進校にまで指定されることになりました。

最後の問い「若手が学校を変えることはできるのか?」

やはり、若手だけで変えることは難しいですが、若手が変化を起こすきっかけをつくることはできます。

 ICTを進めるためのステップをお伝えしましたが、1番大事なのは「想い」だと思います。想いが誰かを動かすきっかけになります。「想いを持った方なら変えることができる」これが、私がみつけた答えのひとつです。

Oct 11, 2022 | category : アルムナイラボ


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