子どもと社会をつなぐハブになる〜小学校教論から指導主事〜

第6回 アルムナイラボ 2022年7月10日(日)より

 ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)1期生の山下揺介と申します。

 今回は私が教育委員会に異動後、実際に取り組んだ事例を紹介しながら教育委員会と学校現場のつながりについて話します。

自己紹介

 私は1984年に埼玉県坂戸市で生まれました。大学休学中、インターナショナルスクールインターンシップでオーストラリアの特別支援学校に3カ月ほどいました。その後は、埼玉県の小学校で教員をしておりました。

 埼玉県小学校では特別活動、体育、キャリア教育を中心に学年主任をしていました。各教科単元に企業や地域などの人材が関わる「公立学校と社会がつながる授業」を実践しておりました。

 私が思う学校というのは、地域のハブになる場所だと思っています。ありのままの自分が出せて、みんなが自分らしく幸せになれるような場所を目指して取り組みました。

 私の取り組みとして、地域の教師がつながり、自己実現できる場所をつくりたいと思い「みんなの職員室」を発足しました。また、常識と非常識という従来の枠組みに囚われない「未来の先生」や教育活動に価値をみいだし、教育が世の中とつながるメディア「UNPORTALISM Education」を運営しております。

教育に必要なのは必然性、学校に変化をもたらした取り組み

 私が取り組んだのは、学校に企業や地域で活動している方を学校に招くことです。年度当初に小学校4年生に対してキャリア教育経営案を作成し、教科ごとに招きたい人材や団体を計画していました。4月中に提案するプロセスを毎年繰り返していました。

 学校外の企業や地域の方を招き入れることに対して、ネガティブな意見がいくつかありました。「人を呼ぶと準備が大変」「準備(テスト)が終わらない」「余裕がない」「山下さんだからできるのでは」「来年はどうするの?」といった意見です。

 文部科学省において「社会に開かれた教育課程とカリキュラム・マネジメント」や「教科横断的な学びの実現」「資質・能力の三つの柱を伸ばす」などが重要だといわれています。こうした流れからも、学校で魅力的な大人にたくさん出会い、触れることが子どもたちにとって必要なことだと信じています。

 また、総合的な学習の時間では「主体的に自己実現しようとする児童の育成」を目的としました。4年生は「めざせお米の達人」5年生は「ともに生きる」6年生は「入西小リーダーの流儀」など学年ごとにひとつのテーマを設定して、児童が自ら興味をもって主体的に学べる内容を目指しました。

 これも同じように年間計画を立てるなかで「ふれる」「つかむ」「いかす」という流れを大事に、学年全体で検討していきました。2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で外部講師は2学期からとなりましたが、1年間で約30名の魅力的な大人が学校に来ていただきました。

例1、三菱電機株式会社デザイン研究所

 授業にお越しいただいた方々を紹介します。三菱電機株式会社の三菱デザイン研究所の方がいらしていただいた際は、講義のなかでデザイン思考について学んでいきました。

 子どもからは「私は、もっと他の人の意見を聞いて、自分の意見と比べて、いろんな考えをつくっていきたいと思いました」など感想がありました。さらに子どもたちのなかにはリーダーの在り方として前に出るのがすべてではないと気づきを得た子もいます。

例2、tanQ株式会社

 tanQ株式会社が開発したカードゲーム教材「田んぼウォーズ」を使った活動をおこないました。たまたま4年生の授業で米作りをしたので、その経験を生かして6年生の社会の授業と「入西小リーダーの流儀」を結び付けて子どもたちがカードゲームを通して、リーダーの在り方について学べる時間を用意しました。

例3、有限会社木下材木店

 地域に根差した企業、有限会社木下材木店さんをお招きして、子どもたちと学校の課題をみつけて仮説から実証、実行に移す流れを体験しました。

 休み時間に遊んでいるなわとびのジャンピングボードが古くなっていることに気付き、下級生のためには新しいジャンピングボードでなわとびを楽しんでほしいという願いが生まれました。

 実際に木下材木店の社長さんにご協力いただき、木材の形や耐久度を確認しながらくぎを打ったり、塗装作業をしたりしました。実施するにあたって、かかる費用と学校の予算でどう見積もりを組むかを教頭先生と子どもたちがやり取りをしてつくりあげました。

 授業の間に子どもたちが変わっていく様子がうかがえました。作業をプロに頼らず自分たちで対応しようと積極性がみられるようになったのです。

例4、体験学習

体験学習を通して「自ら問いを立て、解決をする」という課題に取り組みました。入西小学校に田んぼがないという問い・課題から、田んぼをつくろうと取り組んでいました。ほかにも以下の課題解決をしていきました。

・「プールの外壁なんか寂しいよね?」→外壁を塗装する。

・「サッカーゴール少ないよね?」→サッカーゴールをつくる。

・「小学校の裏の川は汚いからきれいにしたいよね?」→川をきれいにする。

 算数の苦手な子どもが長さを測り、面積を求めている姿をみて、本当の学びはここにあるのではないかと改めて感じました。

取材実績:修学旅行が3回ナシに…どう作る?コロナ禍の思い出(2021年3月12日放送「news zero」より)

「人生一度の思い出をあきらめない」修学旅行がコロナで中止に…子どもたちの熱意が生んだ卒業イベントに1日密着|国山ハセン|vlog

疑問があるからこそ選んだ教育委員会への道

 新型コロナウイルス感染症の影響で修学旅行が3回も中止になりました。ホテル側は貸し切りにするなど、学生の体験機会が損なわれないようにさまざまな配慮をしてくれましたが、教育委員会の方針によって修学旅行は実施されませんでした。

 安全への配慮など事情が理解できるものの、現場の意見や児童の想いに対して向き合ってほしい、教育委員会に対してそのような想いが私のなかにありました。そのなかで、突然教育委員会への異動の話をいただいたのです。私は管理職試験を受けていないですし、現場で教育を続けたい思いがありました。

 しかし、自分の考えを整理する過程で、教育委員会において子どもたちのためにできることをしていきたいと思うようになりました。指導主事という立場ですが、少しでも子どもたちの未来を照らす、灯台のような存在になりたいと教育委員会への異動を決意しました。

 今でも大事にしていることは教育現場に出向くこと、そして「本当に子どもたちの未来のためなのか」と常に疑問を抱くことです。

教育委員会での取り組み

 教育委員会に所属してはじめてしたことは、行政の方との対話でした。人脈を使いながら、すべての課に挨拶をしていきました。

 私は主に「坂戸市GIGAスクール構想」をメインに担当しておりました。「GIGAスクール構想」とは、文部科学省が推進する事業です。

 学校に1人1台の端末と通信環境を整備し、これからのデジタル時代を生きる子どもたちのために「個別最適化され、創造性を育む教育」を実現させる施策です。実現のために3年かけて計画を打ち立てました。

ステップ1:”すぐにでも”、”どの教科でも”、”誰でも” 活かせる1人1台端末

 「坂戸市GIGAスクール構想」で目指している教育は、持続可能な社会の創り手となるように子どもを育てていくことです。こうした活動を推進するために、GIGAスクール関係の研修会を1年で15回以上の研修を実施しました。

 年間計画を立てて、月ごとの目標を設定していきました。ビデオ会議ツール「Google Meet」で、オンラインでも学習ができるように環境を整え、次に管理職研修でMeetやClassroomの使い方を企画、レクチャーさせていただきました。

 1学期に実施した内容をもとに下半期の目標を立て、困ったことがあればすぐに解決できるように「教師用ポータルサイト」をつくりました。

 教師用ポータルサイトでは、経済産業省や文部科学省、ほかの教育委員会など教育に関する情報を掲載しております。すぐにでもWebを確認できるように、教員が普段使っているICT端末のデスクトップ画面からはいられるように設定しました。

 また、「坂戸一般市民向けHP」というWebも同時に作成しており、今まで取り組んだ教員研修やリーダー研修の様子などを公開しています。

 現在教育委員会に勤めていますが、実施していることは学校勤務時代と大差はありません。教育委員会の立場でさまざまな方と一緒に仕事ができ、助けてもらえます。むしろ、学校現場にいたときよりも市内に取り組みが広げられると実感しています。

 教育長に学校の教育現場をみていただくときは、電子黒板の良さをひたすらアピールしていました。その結果、坂戸市の小学校、中学校に電子黒板を追加導入していただくことが決定し、全学級に1台整備されました。

 教育委員会2年目はGIGAスクール担当ではなくなりましたが、教育センター事業のICT活用研修会や市内小学校の校内研究の講師も担当しています。

 私は全体を通して以下の5つを大事にしながら引き続き、教育委員会と学校現場がつながるような仕組みや活動をしていきたいと思います。

・「本気でやらなきゃ本気で笑えない」を子どもに伝えていくこと

・教育委員会や教師、子どもが一緒になってわくわくしながら計画を進めること

・教師は子どもに魚を与えるのではなく、魚の釣り方を教えること

・子どもたちや教員を信じること

・Change  Agent For Education

Dec 21, 2022 | category : アルムナイラボ


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