第7回 アルムナイラボ 2022年9月18日(日)より
一般社団法人ひらけエデュケーション代表理事、ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)1期生の服部剛典と申します。よろしくお願いいたします。
私は、「一般社団法人ひらけエデュケーション」の代表理事として先生や学校の「教育環境づくり」を支える事業や、公認心理師として「人の可能性を広げていく」ための心理教育事業、大学の非常勤講師など、教育領域に力を注いでいます。2018年度まで17年間高校の教員をしていました。
一般社団法人ひらけエデュケーションは、子どもたちをサポートする「先生や学校」をサポートする法人です。主に学校教育における学習者中心の学び、充実したキャリア教育や働き方改革を実現するために活動しています。
なぜ、今「先生」をサポートすることが必要なのか
2012年頃に『WORK SHIFT』という本が発売されました。オックスフォード大学の論文では、米国の雇用者47%は10年後に職を失うなど、社会構造や雇用環境は急速に変化していて、予測が困難な時代になっていくと世間で騒がれ始めたころだと思います。
時代が変わりつつあるなか、学習指導要領という学校の教育課程(カリキュラム)を編成する際の基準が2017年に改訂されました。
私が初めて学習指導要領を読んだときに「これは、とても大きな改訂だ!」と衝撃を受けました。私にとっては、これからはサッカーを「手」でおこなうスポーツにしますというほどインパクトがありました。
「指導力」から「支援力」へ
これまで学校現場では、さまざまな経験を持つ大人が子どもたちに教え導いていく概念が強く根付いており「指導力」が求められていました。先生の職務名は「教諭」です。「教え諭す」という漢字からも当然のことかも知れません。
しかし、学習指導要領の改訂で先のみえない世のなかで「生きる力」を育むためには、子ども「が」主体的に「考えることや学ぶこと」が大切で、先生はそれを支える存在でいること、つまり「支援者」でいることが求められていると感じました。
「指導力」の重要性が弱くなり、「支援力」の重要性が強くなっていくと感じました。ここで課題となるのは、指導と支援では「先生と子ども」の関係性が異なることです。「指導」では教える側と教わる側があり、教える側は目上、教わる側が目下という上下関係が自然と生まれていきます。
しかし「支援力」の場合、上下関係ではなく子どもの伴走者として横の関係性が必要になっていきます。つまり、先生の在り方に変化が求められると感じました。では「授業」はどうなるのか。
■ 指導する授業
先生「が」どのように子どもたちに教えるか、伝えるかが重要視されます。主語は先生です。
■ 支援する授業
子ども「が」考えやすい、学びやすい学習環境づくりが重要視されます。主語は子どもです。
もちろん、いまでも子ども主体という意識をもつ先生は多いと思いますが、「指導」という概念では、先生が教え導くという授業観から抜け出すことは難しいです。つまり子ども主体の学びにしていくには、授業の在り方を変えていく必要があります。
さらに「社会に開かれた教育課程」が打ち出されたことで、学校と社会の関係性も変わる必要が生まれました。私は2018年度まで高等学校の教員をしておりましたが、これからの社会を考えた時に、学校の在り方も変化が必要だということは年々感じていました。
学校教育における価値観の変容、必要なのは「内省」
つまり、先のみえない世のなかで「生きる力」を育むために学習指導要領が改訂され、これから先の学校教育で「何を良しとするのか」が大きく変わると思いました。私は今回の学習指導要領の改訂は学校教育における「価値観の変容」が大切なキーワードになると解釈しています。それと同時に教育観や指導観、子ども観を考えなおしていくとても大切な機会になると考えています。
併せて理解しておきたいのは、人の「価値観の変容」は簡単ではないということです。
私は20年間近く、心理学や脳科学、コーチングなどヒトや人の支援の研究を参考にしながらその要素を活かして学校現場で実践してきたからこそいえますが、「価値観の変容」は子どもより大人のほうがはるかに難しいです。
まず「価値観の変容」は時間やストレスがかかり、また自分(たち)だけでは非常に困難です。さらに教育領域での「価値観の変容」は、一般的な価値観の変容よりも難しいと考えています。
なぜかというと、自分の指導の在り方を問い直すことは、もしかしたら自分の恩師から受けた指導も同時に問い直されるかもしれないからです。
たとえば、自分の恩師が厳しい指導者で、その厳しい指導のおかげで今の自分があると感謝している人が先生になったとき、どのような指導観を持っているでしょうか。きっと自分にとっての「いい指導」は厳しい指導だと認識していると思います。自分だけでなく恩師の指導観も問い直すのは想像するだけでも時間とストレスがかかると思いませんか。
もし「価値観の変容」に必要なことをひとつあげるとすると、自分の考えや言動について省みることで、自ら気づきを得る「内省」だと思います。「今の自分の行動は本当に子どものためになったのか」と自らに問いかけ、考え続ける必要があります。
時代の変化による教員への大きな影響
しかし、学校現場にいると「内省」がしにくくなっていると感じていました。理由としては、無理に誘うとパワハラといわれる可能性があるため、飲み会など価値観が異なる人との交流の機会が減少しつつあることです。もうひとつは、仕事量が年々増え、働き方改革により、早く仕事をこなさないといけなくなったことです。
効率化を求めすぎると雑談の文化が減ります。雑談は、内省するだけでなく子どもたちの様子を共有するなど学校現場では子どもたちのことを考える大切な機会だったという認識でいます。このような変化により、私は真面目な教員が苦しむのではないかと考えました。
自身が持つ指導観と自身の行動のかいりは心的ストレスを生みます。例えば、「このような指導をすればこの子は絶対伸びる」と内心では思いながら、子どもの話を聞いて、子どもがやりたいようにすることを支えることはストレスになります。「自分の指導をしたいという想い」と「自分の行動」が合致していないからです。指導力に自信がある先生ほど、自分自身の指導観や教育観の見直しをしないまま、真面目に子ども主体の教育をしようとすればするほど思い悩んでしまうのではないでしょうか。
また、価値観の異なるグループの分断が起こる可能性もあります。支援を大事にするグループと指導を大事にするグループが「あいつらは本当にわかっていない」と、交流の機会が少ないと敵対心を持つことにつながるかもしれません。
このような状態になってしまうと、学校内で疲弊する教員が増えていき子どもの教育に影響がでてくるのではないかと考えました。
これから先の時代を見通したときに、学習指導要領の改訂はとてもいい改訂だけれども、実現していくには「価値観の変容」のハードルを乗り越える必要があると思うのです。
教育活動の「価値観の変容」を、ゆるやかに支えてくれる役割が必要
このようなことから教育活動の「価値観の変容」をゆるやかに支えてくれる役割が必要だと考えました。
そこで生まれた仮説が「先生方をサポートすることで、心に余裕が生まれて、豊かな教育活動が実現できるのではないか」というものです。その想いを胸に、2019年3月に高校教員を退職し、今までさまざまなアプローチで先生や学校の支援をさせていただきました。
活動内容として、ワークショップ型の研修・授業や学校づくりのコンサルティング、授業づくりを先生と一緒に行うことやキャリア教育のサポートなどもしています。もしご興味を持っていただけましたら、Webサイトをご覧ください。
HPはこちら:一般社団法人ひらけエデュケーション
【先生からのご感想】
・教師の言葉や、本心によって子どもたちの可能性が変化することを実感しました。
・職種や立場は違えど、あったかい気持ちでつながることができ、毎回多くの刺激をもらい、自分の世界が広がっていく楽しさを体験させていただいています。
・いつも場があたたかく、私を受け入れてくれる安心感がある。
・「目の前の子どもたちをみること」「育つ環境をつくること」を心のなかに置いて子どもと関わっていこうと思います。
私が学校支援で大切だと思っていること
私が学校支援で大事だと思っていることが2つあります。1つ目は各現場の「声」から始めていること。2つ目は、学校、先生の力を信じていることです。
私は先生方の力を100%信じています。今後も教育現場を支える先生方に寄り添いながら支えることで、子どもたちへの教育に貢献したいと思います。