先生から経営者へキャリアチェンジ〜学校のアイデアを生かすには?~

第8回 アルムナイラボ 2022年11月13日(日)より

 ラボテック株式会社代表取締役の吉川晶子と申します。ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)2期生、百合学院中学校・高等学校の元教員でもあります。今回は「先生から経営者へのキャリアチェンジ〜学校アイデアを生かすには〜」をテーマにお話しをしていきます。

キャリアチェンジまでの経歴と私が好きなこと

 私は21年間、百合学院中学校・高等学校の教論として勤務し、国語や宗教、キャリア(インターンシップやクエストエデュケーション)を担当していました。またロータリークラブの青少年育成プログラムのひとつであるインターアクト部の立ち上げから18年間顧問を担当していました。

学校がある尼崎市での地域活動にも参加をしていました。「誰でも先生、誰でも生徒」をコンセプトにした、市民がおたがいに学びあうセミナー「みんなのサマーセミナー」実行委員会に所属し、2年間副実行委員長を務めました。現在実行委員を10年務めています。弟が活動しているNPO法人( 特定非営利活動法人)でも一緒にコミュニティースペースの手伝いしています。 

 40歳をすぎてからはマラソンにチャレンジしました。大阪マラソンや神戸マラソンに出場させていただいていました。

 私は基本的には人と出会うこと、冒険するのが好きです。自分自身がしたことないことに挑戦したり、みたことがないものをみにいったり、想像できないものに出会うのが好きです。

 職場である学校には、そういった私の求めている環境がありました。学校の中で1番楽しく働いていたかもしれません。

楽しかった教員生活をやめるきっかけとは

 教員生活はとても楽しくて、教員をやめるとはおもってもいませんでした。そんなある日、父親からいわれた言葉をきっかけに転職することに決めました。

 私の父親は環境分析及び自動分析装置の製造をしているラボテック株式会社の代表ですが、後継者問題を抱えていました。

 会社では家族は働いていませんでした。弟はNPO法人を経営、妹はシンガーソングライター、その下の妹はカフェを経営しており、私は学校の教員でした。後継者候補をあげるとしたら、兄弟のなかで組織で働いたことがあるという意味で私が1番可能性が高かったと思います。

私の気持ちが大きく変わった父親の一言

 2020年の夏に両親と食事をしていた、父親に「晶子は一生学校の先生がいいん?」と聞かれました。「そんなことないかな」と答えた私に対して父親は「もう校長先生になるくらいの気分かと思ってた。じゃあ会社、手伝ってよ。晶子はまだ40代だし、あと25年は働けるよね?」といいました。

 この言葉に対して、働く期間が25年ほど残っていると思うと2回目の人生が送れるような感覚になり、父親の提案に乗るのもいいなと考えました。

 サマーセミナーの実行委員会のメンバーにはさまざまな職業の友達がいます。日頃から友人の話を耳にして、教員じゃない仕事もいいなと思っていました。それに、このまま教員を続けてもTIで出会った先生方みたいにはなれないなと思っていました。

 私は寝食を忘れて熱中できるほど好きなことがあるわけでもなく、目の前に来たことを自分のこととしてチャレンジするほうが好きなタイプだと思っています。大学時代から暮らした関西は大好きですが、新たな場所、会社がある広島県で暮らすことで新しい出会いや友達が増えればもっと楽しいかなと考えました。

 生徒や同僚を想うと寂しくて悲しくて後ろ髪を引かれる想いでしたが、私は約20年勤めた大好きな学校を1年半後に退職することに決めました。

 そうはいっても学校を辞めるときは、バケツをひっくり返すほど泣きました。コロナ禍の影響でお別れ会はできませんでしたが、最後の職員会議で教員の皆さんが見送ってくださいました。

 現在でも学校とのつながりはあり、今年もクエストの校内大会審査員として参加しました。

2回目の新しい人生、ラボテック株式会社に入社

 教員を退職後、父親が経営しているラボテック株式会社に入社しました。今までの経験とはまったく異なる分野です。

 ラボテック株式会社は、工場から出る排水や土壌、作業環境、アスベストなどを計測する環境分析・計測部署と、分析に必要な自動機械を製造する装置製造部署、新商品を開発する研究開発部署があります。もともと、父親はエンジニアで、研究開発を得意としていました。

農業の経験から開発した「産学連携開発商品」

研究開発部署では主に分析の自動化装置をつくっていますが、ほかにも、田んぼや畑で農業を営む方々に向けて害獣(イノシシや鹿)を超音波で追い払う機械の開発などもしています。

海外とのつながり

 中国の大連市にも子会社があり、日本で3年間働いた中国人の社員が働いています。

 過去にケニアとフェアトレードをおこなっていた経験もあります。ケニアでは流れている水をろ過して、飲める水にするための設備を大学やほかの企業と共同でつくりました。また、ケニアの子どもたちの居場所施設モヨ・チルドレン・センターへの支援も続けています。

入社して初日の不安

 会社に入社をしたのは2022年8月です。ラボテック株式会社の社員数は約80名ほどで、パート・契約社員さんを含めれば大体100人弱ぐらいになります。男女比は7:3の割合で男性が多い会社です。

 入社初日は朝礼で挨拶をする機会をいただき、20分間プレゼンをしました。その後は所長会議や業績検討会議を通して、経営企画本部で私の研修計画を話されました。みなさんの会話がわからない状態で、日常会話すら理解に苦しむ状態でした。

 昼休みに母親がつくってくれた弁当と百合学院でもらった水筒をみて癒されていました。帰りには、線路に咲いていた百合をみて泣いて「なんでこんな選択をしてしまったんだろう」と初日は不安でしたが、3日後には慣れてきました。

 その後は会社の各部署を体験し、現在は営業部で経験を積んでいます。会社に入社してから、さまざまな経験をさせていただきました。

【入社して感じたことや出来事】

・中小企業同友会や女性経営塾、中小機構、銀行など、今まで行ったことのない場所、会ったことのない人々に出会えた

・決算書の読みかたなど、お金に関するセミナーを受け勉強

・社内研修をほかの社員と一緒に受けられる

・北海道の日本環境分析協会経営者セミナーへ参加、男性だらけで驚くが、逆に目立っててよかった

・日本環境分析協会が発行する雑誌の編集委員をすることになる(1月号の巻頭の座談会に出ることに)

・中国人、ベトナム人社員がいて、みんな勉強家で刺激を受ける

・ISOの研修を受け、内部監査を実施予定

・出張で行った場所、北海道・新潟・金沢・東京

会社で3ヵ月働いてみて思うこと

1、残業

 入社して3ヵ月間、学校と会社の違いを感じたのは残業時間です。学校では毎日残業をしていたにも関わらず、会社では残業はほとんどありません。それは私だけではなく社員さんも一緒です。

 残業時間に関して、学校では2週間あれば40時間は超える勢いですが、会社のルールでは上司に申請をしないとそもそも残業ができません。さらに月40時間を超えてしまった場合は大きな問題になってしまいます。

2、生徒と教員、社員と社長

 入社する前は学校と会社はまったく違うと思ったのですが、形が違うだけで中身は似ていました。経営者の立場になると、社員は生徒の位置づけに近いと思いました。

 周りから「学校とはまったく違うから大変でしょ?」といわれますが、教員が生徒の成長を支えるのと同じで、経営者の仕事は社員の成長と幸せを支えます。結論、クラス経営と社会経営は形が違うだけで目的は似ている気がします。

具体的チャレンジと今後の目標

 ラボテック株式会社は学校と比べると黙々と、静かに仕事をこなしているという印象でした。元教員だった私が「もう少し、コミュニケーションできる雰囲気をつくりたい」と思い、3ヵ月間で取り組んだことがあります。

■毎日の朝礼を変えてみる

毎朝おこなっていた朝礼は、1日の予定を報告するというだけで終わっていました。そのなかで私事を知る機会を増やしたほうが従業員同士にコミュニケーションが発生するのではないかと思い、話のネタが書いてあるくじ引きを用意し、そのネタについて話すという朝礼をはじめました。

■1ヵ月に1度の全体朝礼を変える

月1回におこなわれる全体朝礼は、社長と本部長が話すだけで終わっていました。ほかの社員にも出番を設けてもいいじゃないかと思い、いろいろな社員が発表できる場に変えました。

■会議の前にそれぞれチェックインをする

会議の雰囲気が固く、もう少し話しやすい雰囲気をつくりたいと考え、会議の前にチェックインを実施するようにしました。

■ほかの会社の視察に何人かでいってみる
働きがい改革推進企業の発表を聞き、ほかの会社に訪問してみたいと思い、アポイントメントをとって、社員と視察しにいく日をつくりました。

■おやつの日をつくる

視察に行った会社がおこなっていた従業員同士のコミュニケーションを取る時間をつくる「アイスの日」を参考に、従業員同士のコミュニケーションを取る「おやつの日」をつくりました。会社からおやつを支給し、15分間コミュニケーションできる時間となっています。

■仕事中のリフレッシュ時間を取りやすくする

社内の空気感を和らげるために、仕事中のリフレッシュ時間を取りやすくしました。

 また、社内で従業員満足度調査をおこなったところ、散々たる結果でした。従業員満足度調査の中身をよく読むと、誰かに会社を変えてほしいという意見が散見されました。自分で自分の居場所をつくる自立した社員を育成し、自分で自分の幸せを築いていける人を増やしていくことが課題に対する根本解決になると思います。そこで私は、社内の若手を集めて10年後の人生と働きかたを半年間かけて考え提案するプロジェクトをはじめることにしました。

 社員が同じビジョンを掲げて働ける環境をつくるには時間がかかるかもしれませんが、試行錯誤しながら取り組んでいきます。

Mar 16, 2023 | category : アルムナイラボ


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