第3回 アルムナイラボ 2022年1月16日(日)より
ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)1期生のLX DESIGN学校営業部、菅家万里江です。
私は渋谷教育学園渋谷中学高等学校で10年ほど教員をしておりました。クラスの担任や部活動の顧問、文部科学省が主催する「新しい学校づくり」では、コアメンバーとしてカリキュラム開発をしておりました。
私にとって教員は天職だと思い勤務しておりましたが、いろいろと悩むところがありました。そんなときTIに出会い、教員を続けながら1期生として米倉ラボに参加していました。
2019年に夫の転勤で台湾に移住し、2020年より学校向けの外部人材派遣サービス「副業先生」を展開している株式会社LX DESIGNで働き始めました。授業コーディネーターなど学校との窓口になるところで仕事をさせていただいています。
「教員の働き方」と「企業の働き方」の違い
「働き方改革」をタイトルにいれさせていただいていますが、「働き方改革」の全体的な話より、教員からスタートアップのベンチャー企業に入社した際の気づき、価値観が変わった話を皆さんに共有させていただきます。
「どうやって働くのか」に関しては大きな価値転換があったので、皆さんにも自分の「働き方」を見直すきっかけにしてもらえればと思います。
教員で経験した「教員の働き方」
私が勤務していた学校は残業が当たり前でした。朝8時5分から教員の朝礼が始まり16時10分(定時)で退勤になりますが、部活動や翌日の準備があるので20時に帰る状態が続いていました。模擬国連部という学生が国連の会議を模擬する活動の全国大会前は、真夜中の0時までの残業も珍しくありません。
土曜日に授業がある関係で1週間のどこかで半休をとれますが、結局「仕事を片付けるための人」になってしまい、帰らない日があります。ある日、外資系に勤めているアメリカ人の夫にいわれました。
「なんで、そんなに職場にいるのが好きなの?」
「僕の職場だと、職場にずっといる人は家庭に問題があるか、仕事ができない人のどっちかだよ」
「僕との時間をつくりたくないの?」
厳しい意見をいわれましたが、当時は全然理解ができないまま働いていました。
スタートアップ企業で経験した「企業の働き方」
スタートアップ企業に入社し、怒られたことが3つありました。私のファーストキャリアが教員だったのもあり、教員と民間で絶対的に違いがあると感じるところです。
1. 「自分だからできる」はすごくない
2. 「ゼロから・時間かけて・1人で」やっても褒められない
3. 時間にシビアに
特にこの3つは指摘を受ける機会が多かったと思います。教員時代は時間をかけて取り組むと褒められますが、会社員ではそうもいきません。
①「自分だからできる」はすごくない
教員時代は「菅家先生の授業って素晴らしい」「菅家先生のクラスだから入りたい」といわれたいと思っていました。模擬国連で優勝したとき「菅家先生に指導してもらってよかった」といわれて喜んでいました。
「あなただからできる」そういわれようと、強いこだわりをもっていたと思います。
スタートアップ企業に入社して間もなく、属人化してもチームは強くならないと感じました。優秀な方が営業成績を出し、事業を成功させていたとしてもチームは強くなりません。
他の方でもできるように言語化してくださいといわれてきました。
学校では「〇〇先生のクラスは素晴らしい」は褒め称えられるけど、これが組織だった場合はどうか。会社では「私だけができる」は評価に値されなかった経験が私にとって大きな気づきでした。
②「ゼロから・時間かけて・1人で」やっても褒められない
0から時間かけて1人でやっても褒められないです。「なぜあなたがやるんですか」、「外部サービスを使えば半分の時間でできるでしょ」、「資料をもとに10分ぐらいでつくってください」といわれるのもしばしば。
③時間にシビアに
「残業してまで完成させるのではなくて、きちんとリラックスできる時間をとって欲しい」「終わりの時間をしっかり意識して、決められた時間から逆算して時間配分してください」「ミーティングは必ず時間厳守でお願いします」「資料を長くつくっても意味がない」時間へのシビアさは、教員時代はなかったと実感しています。
スタートアップ企業に勤めて1年以上がたったとき、私の教員時代は「頑張っているつもり」で、自ら積極的に働き方を変えようとしてこなかったのです。
スキル不足の状態で学んだ「エッセンシャル思考」
私のファーストキャリアは教員なので、PowerPointで資料作成やクライアントとの会話、業務の連絡などできない仕事ばかりでした。
そのなかで『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』に出会い、ある1文に心を打たれました。
「働きすぎるのはあまりにも簡単だという事実。
活動的で向上心にあふれる人にとって自分を酷使するのは苦痛でもないんでも無い。
本当に難しいのは、働きすぎないように制御すること。(本書より引用)」
私は頭をガツンと殴られたような気持ちになりました。
『エッセンシャル思考 最少の時間で成果を最大にする』の著者は、自身の子どもが生まれた瞬間に会社のミーティングに参加していました。仕事相手からは「こんなときになぜここにいるの?」といわれ、家族からは「大事な日になんで仕事に行くのか?」といわれたそうです。仕事を一生懸命しているつもりが、誰の得にもならない状況になっていたのです。その経験が本書を執筆した背景にあります。
「すべてはトレードオフ」です。何かをやるのは、何かができなくなることを意味します。私たちの頭で決断を下せる回数には限りがあります。やることを増やすのではなく、やらないことを増やさないと最大限のパフォーマンスが発揮できないと学びました。
優先順位の明確化から意識する4つの選択
引用:https://sp-jp.fujifilm.com/future-clip/visualization/vol27.html
私が仕事を進める際、参考にしているのが「時間管理のマトリクス」です。自分の抱えるタスクで緊急度が高いものと低いものに分け、そのなかで重要度が高いものと低いものに分けていきます。
生徒が問題を抱えている場合や保護者会前は「すぐにやらなければいけない」緊急性と重要性が高い業務になります。業務フロー整理など、緊急性が低いが重要度は高いタスクは「きちんと自分の時間を確保すべき」と考えるようにしています。
教員時代に宿題チェックや授業準備、会議に使う資料印刷など緊急性は高いけど重要度が低いものは、できる限り外注していました。緊急度や重要度が低い仕事はできる限りやめるようにすることで、時間の使い方が変わっていきました。
外注する、やらないようにするための考え方
①授業内で終わらせることはできないか
テストの採点や点数チェックを授業内で終わらせられるように、授業時間の配分を考えます。
②生徒に外注できないか
実は「外注」に適している人材は生徒だったりします。生徒に仕事を頼むと、生徒は自分で考えて仕組み化してくれます。教員からすれば、時間の効率化と生徒の成長にもつながる、一石二鳥の状態ができるのではないかと考えています。
③キャスタービズなどの秘書系サービスを提案できないか
予算的には厳しいかもしれませんが、外注サービスの導入ができるように管理職に相談をするのも可能なのではないでしょうか。
④授業は「リサイクル」できないか
授業内容は使いまわしたり、他の教員とシェアして活用できないか考えます。例えば中学2年生の授業を週に4時間担当している場合、1時間はしっかりしたものをつくり、残りの2時間は授業を「リサイクル」します。もう1時間は誰かに任せてしまうなど、授業のメリハリをつけるのも大事です。
⑤印刷をなくせないか
印刷にかかる時間を減らすためにオンラインでシェアしたり、各自で印刷をしてもらう方法があります。
⑥外部の人材を活用できないか
英語の授業は海外で活躍してる方を授業に招き、2週間に1回だけ授業をしてもらうなど外部から学びに適した方を呼べると思います。
発想は人それぞれですが「任せる」部分を意図的につくるといいと思います。卒業生で教員志望者の方をインターンとして授業にまねくなど、人的リソースとして活用ができないのか。考えるとアイデアはたくさん出てきます。
あなたの「自分の軸」はなんですか?
私は教員からスタートアップ企業にキャリアチェンジをして「自分が大事にしたいものはなにか」を改めて考えるようになりました。1日は24時間しかないので「どこに優先を置きたいのか」、「それをすることで自分は幸せになれるのか」など「自分の軸」を振り返って考えるのが重要だと思います。
私は教員時代「教員は何でもできる必要がある」という考えに囚われていました。生活指導や授業、保護者対応など「認められたい」一心ですべてに対して100%で頑張ろうとしていましたが、無理だと気づくべきだったと思います。どのように折り合いをつけていくのか。手をつける前に、終わりの時間を考えるクセをつけるのが大事だと思います。
「手放す」勇気で先生界のウォーレン・バフェットへ
世界最大の投資家であるウォーレン・バフェットが実践している「25:5の法則」をご存じでしょうか。
ステップ1:仕事やプライベートにおいて達成したい目標を25個書き出す
ステップ2:リストを見返してもっとも達成したい5個に丸をつける
ステップ3:もっとも達成したい5個と残りの20個にリストを分ける
ポイントは、丸がつかなかった20個のリストはもっとも達成したい5個の目標が達成できるまで、一切取り組んではいけないということ。
ウォーレン・バフェットが持っている世界最大の投資持株会社であるバークシャー・ハサウェイが投資してる会社は一部に限られています。優秀な会社に最大限投資をして最大のパフォーマンスを得ているのです。
これをそのまま教員に当てはめるのは難しいと私自身も感じていますが、「何でもやらないといけない」先生像から少し抜け出し、ひとつ上のレベルになるきっかけにしていただけたらなと思います。
そのためには「手放す」勇気が必要です。生徒のためだからと考えてしまうのが教員のつらいところではあります。しかし、教員がメンタルの不調を抱えてしまうと、生徒にも影響を与えます。
最近、同僚の若手がメンタルの不調をきたしている話や、妊娠した女性が辞めていく話を聞きます。教員を目指している生徒と会話をすると「教員はやっぱりキツそうだからやめます」とも聞きます。
子どものためを考えるのはとても素晴らしいと思いますが、それによって個人がハッピーになれない現実があるとしたら「25:5の法則」のように「絶対にやること」と、「本当にやらないこと」の切り分けを考えていく必要があると思います。
今までおもしろいなと感じた本
私が今まで読んできた本でおもしろいと感じたおすすめの書籍を紹介したいと思います。
①『世界で一番優しい会議の教科書』
スタートアップ企業に就職して、会議に作法があると知りました。『世界で一番優しい会議の教科書』は物語形式でわかりやすく解説しているのでおすすめです。時間が短くなるだけではなく、会議の質が上がると思います。
②『自分の小さな「箱」から脱出する方法』
自分が何かに不満を抱いているときは自分が箱のなかに入ってしまって周りがみえなくなっているという話が書かれています。人間関係がつらいときに読んでもらうと「なんで、あいつは動いてくれないんだ」と考える時間がどれだけ無駄かを実感させてもらえる本です。
③『人に頼む技術』『伝え方が9割』
自分があまり罪悪感を感じず人に動いてもらえるようになるコツが書いてあるのでおすすめ書籍です。
④『Teacher’s Hack』
定時退勤するための50個のアイデアが書いてあり、定時に帰る方の実例も紹介しています。
「自分の軸」を「働き方革命」につなげる
自分から行動するのが「働き方改革」だと私は思っています。「自分の軸」を振り返り思考し、時間が有限であると再認識して取捨選択をするのが子どもの未来を支える教員には必要なのではないでしょうか。私の学びが少しでも皆さんのお役に立てたら嬉しいです。