授業を1日まるごとオンラインにしてみたら!? 突然の休校に負けないレジリエンスを備えた学校へ

宝仙学園中学高等学校 米澤貴史

攻めの1日オンライン授業DAY

コロナ禍の中、「教務部長」として走り出した

2020年春に突如起こった新型コロナウイルス感染拡大。

連日教員ミーティングを重ねながら、実は楽観的な見方もあったのです。しかし、教務部長という立場で、学校の経営全体を眺めた時に、「最悪の状態を想定して動くべきだ」と考えました。宝仙学園中学高等学校は、もともとICT化を進めてきた学校です。しかし、コロナ禍でさらに加速させる必要があると感じました。私は担任のクラスがなく、教務部長として学校の教育環境を整えたり広報活動や学校の経営サポートを行う立場です。2月末に休校が決まった時点で試験は配信することに決定し2日後に配信、休校決定の翌日3月1日には全教員にZoomのアカウントを配付、卒業式もYoutubeLiveを活用、5月の連休明けにはオンライン授業をスタートさせようとスピード感を持って準備を行いました。

これは、我が校でZoomを用いて行ったオンライン会議・授業の時間(月間)の月ごとの推移をグラフにしたものです。3月に138コマだった利用時間数は4月に2万6千時間、5月には6万4千時間、6月には5万6千時間という数字まで数百倍に伸びました。

△Zoomを用いて行ったオンライン会議、授業の時間(月間)

生徒の心のケアができるように早くオンライン環境を整えたい

 なぜ、そこまで急激に時間数を増やすことができたのか?宝仙学園の文化である「生徒と教員の距離が近い」「良好な関係」が壊れてしまう、という強い危機感がそこにはありました。オンライン環境を早く整え、生徒たちにとって、日常に近い学習状況やコミュニケーションの場をつくることに注力しました。

 もともと生徒の大半がiPadやスマートフォン、PCを持っていたこと、9割以上が自宅WiFi があるということも好都合でした。ロイロノート、Google Classroom、Zoomを活用したオンライン授業を設計することにし、急いで教職員と中学1年~高校3年生の生徒に必要なアカウントを発行しました。初めはオンライン面談を行うところからスタートし、クラスでの交流が進んだところでオンライン部活動やオンライン授業など徐々に再開していきました。

もちろん、教員同士の打合せ・職員会議・保護者会もオンラインを活用していきました。

△Google Classroomで実働しているクラスルーム数

これは、Google Classroomで実働しているクラスルームの数をグラフとして可視化したものです。4月の開設から夏休み前まで継続してクラスが活用されていることがみて取れます。

ロイロノートのアクセス数はコロナ前と比べて10倍になり、最初は利用を控えていた先生もロイロノートを利用し、良さを実感しているように見えました。学校再開時には今まで通りオンラインツールを使わないスタイルに戻る先生が増えると思ったのですが、今でもオンライン化の波は変わりません。人が集まるイベントは控える必要があるので、体育館やICT教室に機材をセットして全校集会や式典をZoomで配信することも行っています。

オンライン授業の実施でみえたメリットと課題

 オンラインでの時間割にも工夫を加えました。2020年5月の連休後、午前のオンライン授業は主要5科目から3コマとし、午後はロングホームルームや、体育・芸術・などの主要5科目以外での学びの場・面談などを学年全体で企画していきました。例えば、「コロナ後の世界はどう変わっているか」というテーマでディスカッションを行うなど、この時期しかできない学びにもこだわりました。遠隔での議論を可視化するために、Zoomに加えてオンラインホワイトボードツールのGoogle Jamboard を活用するなどの工夫も生まれました。オンラインの良さとして、授業で発言できない子もチャットで気軽に聞けることや、発言しやすい子がいるということもわかってきました。

まる一日の「オンライン授業避難訓練」で、平時の備えを万全に

 7月からは登校が再開されました。生徒たちは友人や教員との交流を楽しんでいる様子で、「顔を合わせて学べるのは安心感があって良いね」と平時に戻ったかに見えました。しかし、我が校は新宿からわずか一駅という人口密集地域にある学校です。様々な場所から通学してくる生徒たちが多数集まる学校で、いつ陽性者が出てもおかしくない、つまり、急な休校措置が生じる可能性があるという危機感を持ち続けていました。

 その危機感の中で生まれてきたのが「オンライン授業避難訓練」という学校全体での取り組みです。9月より週1でまる一日オンライン授業の日を設けることにしたのです。これは学校全体での取り組みなので、オンラインが苦手な教員も逃げられない状態になりました(笑)。とはいえ、先生方のスキルにも差があります。教員は完璧を求めたがる傾向にあるのですが、TI講座に参加をした先生やICT機器に明るい先生でトライ&エラーをしながら少しずつチャレンジができる雰囲気をつくっていきました。

ティーチャーズ・イニシアティブのICT講座で得られたこと

 休校期間中に、学校外の知見を得たいと、数人の先生たちでTIオンライン講座に参加しました。TIの講座に参加したことによって先生方からは「(交通機関がマヒするような)台風、大雪による臨時休校時にも、学びを止めることなく対応ができるようになる」と前向きな意見が聞かれるようになりました。TIの参加を通じて先生方の意識が高くなっていることを感じます。9月には、アドバンスプログラムの「授業デザイン編」にも個人で参加しました。オンラインの特徴を生かした授業デザインを学校に浸透させようとしています。ゆくゆくは先生も自宅から授業配信できるような環境も整え、生徒の学びに加え、生徒との近い関係性という宝仙学園の良い文化を守ってゆきたいと思います。

Apr 22, 2021 | category : 実践報告


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