マイノリティとしての女性

第2回 アルムナイラボ 2021年11月14日(日)より

 ティーチャーズ・イニシアティブ(以下:TI)2期生の桐蔭学園教諭、本田貴弘と申します。今回は桐蔭学園中等教育学校で実施している探求授業の実践例を共有しながら、探究授業のやり方や内容をお話していきます。

 桐蔭学園高校でおこなっている探究授業は、1年生の1学期に共通スキルを学んだ後、教員が週1回開くゼミに入ってもらい、生徒の見識を広げていきます。授業を通して感じた課題を2年生の2学期にプレゼンして、3学期に論文作成をおこないます。

 探究授業の目的は、たしかな知識を身につけて生徒自ら行動していくことです。私のゼミでは「マイノリティ」というテーマで探究授業を実施しています。今回は、ゼミの内容を共有していきます。

影に隠れた日本の大きな問題

 突然ではありますが、日本に住んでいる方の貯金額の差が大幅にあることをご存じでしょうか。日本において、1人世帯の貯金額は平均645万円ですが、貯金0円の割合が39.1%を占めています。以下のチャートでは、日本のSocial capital(人とのつながりの強さ)は169ヵ国中132ヵ国という結果が出ており、格差が明らかになっています。

事例1:排除アート

 マイノリティへの手が差し伸べられていない事例の1つ目は「排除アート」です。「排除アート」は、公共スペースが想定以外の用途で使われないようなデザインを指します。このベンチは横になって寝れないように仕切りがついている「排除アート」のひとつです。ホームレスの方などが寝ることがないように工夫されたデザインになっているのです。ホームレスというマイノリティになった瞬間、町から排除される。実際に問題となった事例として、豪雨の被害で体育館に避難しようとしたホームレスが避難を断られたという話もあります。

事例2:沖縄の辺野古基地建設に反対運動

 こちらは2年前に起こった、沖縄の辺野古基地建設に反対する方たちの写真です。本事件について、自衛隊は保安行為だと話しています。写真でみてわかるように、突撃により怪我をしている方が何人もいました。

 現在、沖縄の75%が米軍基地であることをご存知だと思いますが、県民総所得に占める基地関連収入はたったの5%しかありません。経済効果5%のために信じられない負担を強いられてる方は1種のマイノリティになっています。米軍基地の施設に2兆5000億円かかるといわれていますが、膨大な資金をホテルや地域活性化のために使った方が、明らかにプラスになるのではないかと私は思っています。

事例3:ヘイトスピーチ

 2019年に小学館から発行されている総合週刊誌『週刊ポスト』に「韓国なんて要らない」という見出しが出ています。コンビニでも購入できますし、電車内の中吊り広告にもなっています。

 在日朝鮮人と言われる人たちや、関係者の方々がどういう気持ちになるのかという想像力がまったくできていない。ヘイトスピーチがいまだに残っている現実があります。

事例4:名古屋入管施設で亡くなったスリランカ人女性

 名古屋出入国在留管理局で亡くなったスリランカ国籍の女性、ラスナヤケ・リヤナゲ・ウィシュマ・サンダマリさん(以下:ウィシュマ)の話を聞いたことがあるかも知れません。収容中の2021年1月頃に体調の悪化がみられ始めたウィシュマさんは嘔吐などで体重が急激に落ちました。

 ある日、牛乳を上手く飲めずに鼻から吹き出したウィシュマさんに対して、入管職員は嘲笑し、嘔吐した食べ物を無理やり食べさせようとしていました。ウィシュマさんが「病院に連れてって」と入管職員に伝えても無視した結果、ウィシュマさんを死に至らしめました。ウィシュマさんに関する文書を公開しようとしたが、すべて黒塗りされており、まったく助けようとしない現実がそこにはありました。

 入国管理局の収容施設では、15年間で16名の方が亡くなっています。外国人など、マイノリティの方への配慮が感じられない現状があるのです。

事例5:ジェンダー問題

ある同性愛の方の実際の声からも、現状は変わっていない。常識があり、マジョリティがあり、それ以外の方は知らないという雰囲気があります。

 この風刺画は、まさに日本を表しています。女性の前にはさまざまな障害物があるにも関わらず、男性は公正のレースかのように走ろうとしています。世の中にはさまざまな社会格差があり、マイノリティの方は障害を乗り越えないといけない。一方で、裕福な家庭に生まれた子どもたちは当たり前のように塾へ行き勉強をし、世界を広げるものにもリーチでき、成長していきます。そして、平等であると錯覚しています。あたかも同一条件下、できないのは自己責任になっている、そういった価値観が押し付けられている社会になっていると思います。

私のゼミ「マイノリティ」で伝えたいこと

 私がゼミを通して教えたいのは「医学モデルから社会モデルへ」です。脳性麻痺を患っている当事者研究者として活躍する熊谷 晋一郎准教授がおっしゃるように、個人が抱える問題を個人だけの問題だと思わず、社会や環境にも問題があるかもしれないという考えを持つことが必要です。私はそれを生徒に伝えていきたいと思っています。

 普段のマイノリティゼミではあるマイノリティの方について講義し、生徒たちと議論をして考えてもらっています。

平然と起こっている、男性と女性の差とはなにか

 ピアノを弾いている方は、ショパン国際ピアノコンクールで入賞した反田恭平さんです。ここで議題にしたいのは「ピアノを習う約80%は女の子です。しかし、ショパン国際ピアノコンクールの過去5大会ベスト3をみると、男性が14人に対して女性は3人ということです」この理由は、手の大きさが関係しています。

 当然、男性と女性の手は大きさが違い、手が大きいほど片手で押せる鍵盤の数が増えるのでうまく弾くことができます。つまり、この世のピアノは男性の手に合わせてつくられており、女性用のピアノはまさにマイノリティといえます。

 シモーヌ・ド・ボーヴォワールというフランスを代表するフェミニストが「男は人間として定義され、女は女性として定義される。」というように、世の中にあるものは、すべて男性中心でつくられているものが多いです。

 ・多くのスマートフォンは女性の手には大きすぎる

 ・シートベルトは妊婦さんを対象にした事故の確率を調査していない

 ・ドラえもんとドラミちゃんは、ドラえもんは何もついていないのに対してドラミちゃんは女性を表すリボンがついている

男性が中心という風潮は無意識のなかで醸成されてしまっているのではないでしょうか。

世界のジェンダーギャップ指数、日本は120位

 男女間の不均衡を示す指標であるジェンダーギャップ指数(世界男女格差指数)において、153ヵ国中日本は120位です。ちなみに121位のシエラレオネ共和国という南アフリカの西部にある国は識字率が60%(15〜24歳の)です。それくらいジェンダーギャップが広がっています。日本の現状は先進国とはいい難いです。世界全体でみてもジェンダーギャップがなくなるまでに、135. 6年かかるといわれています。

 こちらはG7(フランス、アメリカ合衆国、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)各国のジェンダー・ギャップ指数の推移です。2006年の時点ではイタリアやフランスと肩を並べていましたが、2021年はイタリアやフランスの数値が向上しており、日本はまったくマイノリティの人々に対して改善できていないことが読み取れます。

どんなマイノリティの「女性」がいるか

 マイノリティの女性について、生徒にシェアした内容と同じ例を紹介します。男性と女性の生物学的な大きな違いは、妊娠出産ができるかどうかです。性行為はお互い合意をしたうえで実施すれば問題ありませんが、現実は違います。女性が抱えるリスクや負担について、避妊、中絶、出産をもとに話していきます。

①避妊

 予期せぬ妊娠は、身体的にも精神的にも負担が多いので、正しく避妊したいというのは当然だと思います。一方で、ほかの国と比べて日本の仕組みは不十分です。

 例えば、日本で1番メジャーな避妊の手段はコンドームです。しかし、男性に使用意志がなかったり、正しく使用しなかったりすると妊娠するリスクが高まります。さらに現在の教育機関でもコンドームに関する指導が不十分です。コンドームについて追求した中学校が都議会議員から批判にあったという話もあります。

 毎日服用すれば、ほぼ確実に避妊ができる低用量ピルも避妊手段として存在しています。男性の勃起力を上げる薬であるバイアグラは、たった半年で認可されたにも関わらず、ピルの導入まで39年もかかり、認可されたのは1999年と、国連加盟国のなかでも最も遅かったのです。

 避妊の手段としては知らない方も多いとされるのが、アフターピルや緊急避妊用ピルの存在です。性行為後の72時間以内に服用すれば避妊が期待できますが、日本における認知度は低く、入手するためには診察を経て1万円から3万円ほど必要になります。世界95ヵ国では診察なしで低額購入ができ、未成年の場合は無料で手に入ります。

 日本では性行為をして、不安になったときはどうすることもできない方が多いです。神に祈るしかない、そんなことで本当にいいのでしょうか。海外では避妊シールがあり、貼るだけで避妊できるものがありますが、日本では認可が下りていませんし、ほとんど知られていません。

②中絶

 日本は、望まない妊娠をしたら女性は逃げることができず、助けようとする方も少ない現状にあります。中絶は、身体的、精神的にも負担が多いので何としても負担を減らしたいと思う部分ですが、設備に課題があります。

 2020年では、中絶のケースが145,340件あり、多くの女性が苦しんでいます。日本の手術は、吸引法もしくは搔爬(そうは)法ですが、世界保健機関(World Health Organization:WHO)では搔爬法は時代遅れの処置であり、失敗率が高く、痛みや子宮への傷が懸念されるため推奨していません。海外では1988年にフランスで薬剤による中絶が可能になり、70ヵ国以上で利用されていますが、日本では未認可です。

 妊娠後期に入ってしまうと、人工的に陣痛を起こして分娩をしますが、かなり負担が大きいです。吸引法を推奨する声が増える傾向にあるにも関わらず日本では浸透していません。

 中絶をするためには同意書が必要とされます。当事者である女性が「中絶したい」と思う気持ち以外に同意が必要なのか、私は疑問に思います。こうした同意書を必要としている国は201ヵ国中日本を含む11ヵ国だけなのです。

③出産

 出産に伴う痛みは鼻からスイカが出てくるほどの痛みといわれています。妊婦さんには痛みを和らげる「無痛分娩」という選択肢があります。アメリカで無痛分娩の使用率は73.1%とされますが、日本は6.1%ほどです。この数字から、無痛分娩は日本においてあまり浸透していないことがわかります。

望まない妊娠によるできごと

①公園で出産、新生児を放置

 看護学生の女性が公衆トイレで子どもを出産し、新生児をポリ袋にいれて放置した事件がありました。彼女は保護者責任遺棄致死罪で懲役3年、執行猶予5年の罪に問われました。この事件は、相手の男性に連絡がとれず、誰にも相談ができないまま中絶可能な時期が過ぎてしまったという背景があります。女性は罪に問われていますが、父親にあたる男性の責任に言及されない点を疑問に思います。

②幼児を放置し餓死

 女性が男性に会いに、4日間外出の間、3歳の女の子を放置して餓死させた事件がありました。「男に狂ってた」というニュースの見出しがあることから、母親が悪人のように挙げられています。もちろん、母親に責任があると思いますが、本当に母親だけの問題なのでしょうか。父親や社会支援の乏しさについて言及する必要があるのではないでしょうか。

 日本の母子家庭は128世帯に対して父子家庭は22万世帯という統計からも、子育ては女性がする前提になっています。継続して養育費の支払がある家庭に関しては24.3%のみです。海外では養育費を払わせるために弁護士が仲介に入り、給料から天引きをしたりしていますが、日本ではありません。

 性行為は避妊だけでなく合意も大切なことですが、合意なく被害にあった方が多くいます。日本の強制性交等罪で罪を問うには、被害者が加害者の行為に対して抵抗や拒絶をしたことを立証する責任があるのです。

 フィンランドにおける生物の教科書では、性行為において「責任と信頼」とは何を意味するのか、議論しなさいと記載されています。

<フィンランドの教科書>

 日本では保健体育の授業でさえこういった議論はおこないません。なぜ、女性が一方的に負担を背負わさせられるのか。男性は女性特有の問題に無関心であり、女性を守るルールの場では女性がいないという、極めて男性中心主義の現状が浮き彫りになります。

男女間のマイノリティ問題に対して何ができるのか

 避妊、中絶、出産の場面において、テクノロジーの導入や、加害者に対して寄り添う報道が必要だと思います。被害者を出さないためには、あらゆる検討の場に半数は女性が参加する、性教育を充実させるなどが挙げられます。

 最後に皆さんに伝えたいことで、私が好きな言葉があります。

「『結果』だけを求めてはいない『結果』だけを求めていると人は近道をしたがるものだ……近道した時、真実を見失うかもしれない、やる気も次第に失せていく。大切なのは『真実に向かおうとする意志』だと思っている……向かおうとする意思さえあれば……いつかはたどりつくだろう……」

(ジョジョの奇妙な冒険 第5部『黄金の風』 第59巻より)

私は真実に向き合おうという意志をもって、教壇に立ち生徒と向き合いたいと思います。

Aug 30, 2022 | category : アルムナイラボ


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